まず今回の選挙の総括をすれば、統一地方選では自民党の地方議員の苦戦が目立ちました。一方、国政に関わる衆参5補選では、結果を見れば自民党の4勝1敗。一見、大勝のようですが、自民党幹部は「喜んでいられる内容じゃない」と明かしています。
圧勝と見られていた山口4区は5万1961票しか取れず、大分の参院補選はたった341票差ですよ。いずれも予想外の苦戦を強いられ、オール与党の体制で臨んだ和歌山で負けたのは、自民党のガバナンスが効いていないからです。選挙後に岸田総理が笑顔を見せましたか? 見せていませんよね。
このところ内閣支持率が上向いているのは、やはり外交の成果が大きいでしょう。本人が何かやったわけではないにせよ、「過去最悪」と言われた日韓関係の雪解けが進んだわけですから。
しかし国民に気づかれたらマズいことをうまく隠してきたということは指摘しておかなければいけない。子育て政策は「やるやる」と言っていますが、財源は間違いなく国民負担になりますし、原発回帰に問題はないのか。旧統一教会問題についても、統一地方選では関係性が指摘される議員が山ほどいる中、徹底調査どころか一切触れませんでしたよね。とにかくマイナスにつながることは徹底的に伏せる。支持率の上昇は隠ぺいの賜物とも言えます。
だから私としては、早期の解散はないにしても、解散総選挙をやるんだったら「どうぞやってください」と。その代わり、隠していることを全部争点にして国民の信を問うべきですよ。党利党略や総裁選で自分が勝つためだけの解散は絶対に許されません。
岸田さんを一言で表せば朝令暮改。世間の反応を見て、言ったことをすぐにひっくり返す。「聞く耳」と言えばそうなのかもしれないが、そこに信念や理念というものが見えない。
子育て政策を見ても、これまで「1」だったものを「1.5」にするとか、今あるものを増やすだけというのが目立つ。岸田さんが「何がいいか」と役所からプランを出すように指示し、それで上がってきたプランを並べているだけという声もあります。子育ての問題は社会そのものを変えないといけないわけですが、そんな理念が岸田さんには見えない。
それを象徴するのが、旧優生保護法訴訟への対応です。旧法の下で、不妊・中絶を強制されたとして原告5人が提訴し、今年3月、大阪高裁は国に損害賠償を命じたのですが、政府はこれを不服として上告したのです。判決では、「手術によって子供を産み育てる意思決定の機会を奪うもので、極めて非人道的」と違憲の判断を下しているのに、政府が徹底的に争う姿勢を見せたということ。
似たようなケースで思い出されるのが、ハンセン病の国賠訴訟です。同じく差別的な悪法が、後にまで残っていたために生じた裁判ですが、01年に熊本地裁で国が負けた時には、当時の小泉純一郎総理は控訴を断念し、患者たちに直接会って謝罪しました。
国のトップが決断すれば、社会が変わるんです。岸田さんは耳当たりのよい子育て政策を謳っていますが、その裏では、子供を産み育てる権利を奪ってきた人権無視の悪法の過ちを認めようとせず上告した。
こんなおかしなことはありません。いかに理念に欠けているかがわかるというものです。