長年、通販事業を営んでおりますが、そりゃあ順風満帆に歩んできたというわけじゃありません。失敗したことだって当然、あります。よく聞かれるんです。「石田社長はどうして1個の商品に対してそんなに力を入れないのか?」と。「夢グループ」のテレビショッピングCMも手書き原稿で10分あれば作っちゃいますからね。はたから見れば「もっと慎重になったほうがいいんじゃないか?」というご心配をいただくわけです。
でも、僕は常に3割バッターを目指しているので、極端な話、10個の商品のうちの1個の商品が大ヒットを飛ばせばそれで十分なんです。なんにでも全力で向き合っていったら、それこそ疲労困憊で売れる商品の長所を見逃してしまいます。それより、商品の長所を即判断できる能力が重要。すぐに長所が言葉に出せない商品に時間をかける必要性を感じません。
そうそう、うちの社員たちにもよく「間違ったり、失敗したっていいんだよ」と言うんですが、今の人は失敗を極端に恐れて完璧を求めるからか、大きな失敗はあまりしませんね。でも、成功もしない。大きな失敗を経験すれば、小さな失敗は未然に防げるし対処だってできるのです。僕は3割バッターだから、10回のうち3回は成功しますが、7回は失敗します。大切なのは失敗に早く気づけるかということ。そこに気づかぬまま、ダラダラと無駄な時間を費やすほうがよっぽど効率が悪い。仮に6割の出来だとしても早めに終わらせてしまえば、あとで時間が空いた時に難点だったところに集中できますから。
僕の場合、そもそもが「社長になろう」と思ってなったわけじゃありません。僕のことを誰も雇ってくれなかったから、自分で商売するしかなかったんです。その代わり、通販の仕事は商品のオーダーから貿易、広告、すべてこなします。月に約10億円のノルマもありますから、年間120億円ぐらいは最低でも自分が売っています。土日も社員のいない会社に来て、クレーム書類に目を通してお客様に直接、謝罪のお電話を差し上げたり。「なんだ社長、やっぱり年中多忙で時間がないんじゃん」と、皆さんそう思われるでしょ(笑)。ところがそうじゃないんです。僕、誰よりも遊んでいます。今は「夢グループ」でコンサート主催の事業も行っていますから、通販の営業も含めると年間に約200日は日本全国に行っているんですよ。
そこで何をやっているかと言いますと、僕は司会進行役なんですね。例えば橋幸夫さんのコンサートだとしましょう。歌手の皆さんはだいたい開場の1時間前には楽屋入りをしてお化粧をします。僕はお化粧をする必要もないですから、その間は、ホールのロビーでお客様にご挨拶をしながら催事をやっているんです。着替えをするのは開演5分前。そして、いよいよ緞帳が上がると、心待ちにされていたお客様の目に、橋さんと私の姿が飛び込んでくるんですよ。さっきまでロビーにいた僕が突っ立っているものですから、お客様はドッと笑われます。でもね、僕も司会進行が役目なのでこれはしょうがないんです(笑)。
こんな調子で約1時間は出ずっぱり。橋さんとのトークショーがあったり自分の曲を歌ったり。そして、橋さんの歌が始まると、今度はお客様と同じ客席に座ります。そこで何をするかというと、寝るんです(笑)。音響さんに「次の僕の出番に起こして」と告げてね。そんな風にして約2時間半のコンサートが終了します。
さあ、そこからが僕の楽しみの時間です。日本全国、津々浦々。どこへ行っても良い〝温泉〟や〝健康ランド〟というものがありますね。僕は幼い頃、家庭が貧しく銭湯通いだったものですから、今でも自宅のお風呂より銭湯が好き。地方での楽しみといったら、もう良いお湯にゆったりと浸かる。これしかありません。
昨年だけでも180軒ぐらいは行ったんじゃないでしょうか。行く時は、CMのアシスタントもやってくださっている歌手の保科有里さんと一緒です。彼女も温泉や健康ランドが大好きだから「保科さん、ちょっと温泉探しといて」ってお願いすると、調べておいてくれる。もう日本全国の温泉担当でございます。
あんまりね、芸能人で女性の方だと温泉が好きだという人って少ないんですよね。やっぱり職業柄、人に見られることに躊躇されてしまうのかもしれません。そういう意味では保科さんはまったく意に介さず堂々としたもの。僕が温泉や健康ランドに誘って断られたことは1回もありません。お金は僕が出すんですけどね(苦笑)。そこで何が始まるかといいますと、いかに入浴料以外の料金を抑えられるか。保科さんは必ず石鹸やシャンプーなどのアメニティグッズを持参されてきますが、僕は30円ぐらいのチューブのものを購入します。でも、地方の温泉って案外、タオルが付いていないんです。レンタルすると何百円も取られて、もったいない。そこで、僕は宿泊先のホテルからタオルを持っていくんです。こういう僕のセコさを保科さんもよ〜くわかっていますよ(笑)。
そういえば困ったこともありました。青森の健康ランドでサウナに入った時のこと。40人くらいが座れる造りだったんですが、サウナの中でちょうど「夢グループ」のCMが流れ出したんです。しかも、「目をとじて〜♪ 目をとじて〜♪」っていう、カラオケマイクの商品紹介でした。できるだけ他の人たちと視線が合わないように、じっとしていたんですが、どういうわけだかバレちゃった。もう逃げるにも逃げ出せない状況で「社長、せっかくだからここで歌ってよ」って言われましてね。結局、40人の前で歌いながらサウナから飛び出しました。
「会いたくて会えないの。もっと、もっと幸せになって〜じゃあね〜♪」ってね。
石田重廣(いしだ・しげひろ)株式会社夢グループ、株式会社ユーコー代表取締役社長。1958年7月1日生まれ、福島県出身。自ら出演する「夢グループ」のテレビショッピングで大人気。昨年、保科有里とのデュエット曲「夢と…未来へ」で歌手デビュー。