「え〜っ、こんなに安くしてくれるのぉ? うれしい〜っ、社長〜」
「わかりました。何とか安くしましょう」
突如、画面に現れる福島弁訛りのおじさん社長と色香をたっぷり匂わせる女性の甘え声。このテレビショッピングのCMがお茶の間の皆様に浸透してからというもの、おかげさまで我が社は大反響でございます。
はい、ご挨拶が遅くなりまして申し訳ございません。私、あのズーズー弁の「夢グループ」代表取締役社長、石田重廣でございます。
最近ではものまね芸人の古賀シュウさんや神奈月さんらが僕のマネをテレビで披露してくださったりしてグンと知名度もアップしました。バラエティ番組に出演させていただいたりと、本業以外でも大忙しです。年商も2018年度の110億円から、2020年度には151億円へと急成長を遂げ、うれしい悲鳴を上げている次第です。
おっと、先に申し上げておきますが、CMで話題を呼んでいるあの女性。「もしや、社長の愛人?」と噂にもなっているそうですが、とんでもない。彼女は保科有里さんといって、れっきとした歌手の方ですからね。実は僕、通販会社の他にコンサートの開催などもやってるんです。
通販CMは約120秒のものを主に制作しています。民放、地方局合わせてだいたい1カ月に2000本ほど流れていて、台本と演出は僕の担当。台本は、10分ほど時間があれば静かな場所でササッと書けちゃいます。保科さんにも「ちょっと甘えた感じで」というお願いだけして、あとはぶっつけ本番。ものの15分間ほどで撮り終えちゃいます。
そうそう、衣装やメイクはぜ〜んぶ自前。基本は商品に注目していただきたいわけですから、僕らは視聴者の皆様に不快な印象を与えない程度の見た目であればいいわけです。その甲斐あってか、売り上げは絶好調。人気売れ筋商品では「スーパージェルクッション」や「シルク靴下」、「夢コードレス強力サイクロン(掃除機)」等々、10億円以上の売り上げを記録したヒット商品が30品以上となりました。
でもね、こんなことを言うのは本当におこがましいのかもしれないんですが‥‥正直言うと、僕、〝通販が大嫌い〟な時期があったんです。もちろん、通販事業を開始した当時はそんなこと、露ほども思ったことはありませんよ。もうガムシャラでしたから、電話が1本鳴るだけで飛び上がるほどうれしかった。ところが、今から20年ほど前のことでしょうか。もう通販業界が嫌になって逃げ出したい気持ちになったんです。
通販って、やっぱりお客様との間に温度差が生じやすいものだと思うんです。僕はお客様が喜んでくれさえすれば大満足。ところが、現に年間約200万件のお客様からご購入をいただいているのに、当時、電話で「ありがとう」という言葉はひと言もかけてもらえない。その代わりに浴びせられるのは、クレームの嵐。オペレーターも毎日のように泣いていますし、僕自身もすっかり自信喪失していました。追い打ちをかけるようにネット社会となり、子供からも「お父さんの会社って悪い会社なの? ネットにひどいことが書かれているよ」と言われ、愕然としました。
実際に電話口で「社長を出せ」と怒る方も月に4〜5人はいらっしゃいました。でも、いくら僕が直接電話に出てお話をさせていただいても、「社長が〝僕〟なんて言うわけない!」「何で訛ってるんだ。本当の社長を出せ!」と、お客様はますます逆上するばかり。
そこで僕はある作戦に打って出ました。こんなCMを作ったんです。「今日、ご紹介する商品は○○です。6800円でご紹介します」と言います。そこへ保科さんが「もっと安くしてくださ〜い」と値下げ交渉をする。「わかりました。何とか安くしましょう」と言って、6800円からさらに安くする。
「でも、今まで1万円で買ってくださってたお客様、本当にごめんなさい」って謝ったんです。確かに以前、同じ商品をご購入いただいた方にしてみれば損をした気持ちになるし、腹立たしくなるかもしれません。ところが、予想以上にこの〝ごめんなさいCM〟の反響が高評価へと繋がったのです。
「『ごめんなさい』なんて言ってくれる社長、見たことがない」「信用ができるようになった」と。約200人のオペレーターたちからも「社長、今日はお客様方からいっぱい『いい社長だね』という激励のご連絡をいただきました」と続々と報告が届きました。
自分自身をCMで露出することによって、お客様とお話をする時にも「あっ、石田社長だ。頑張ってよ!」と、偽社長だと疑われることもなくなりました(笑)。テレビCMに出演するようになった理由にはそんな背景があったからです。
3年前から移動販売も行うようになりました。最初は、宣伝や告知は新聞の折り込みチラシ1枚だけ。トラックに商品を積んで会場となる千葉県君津市の文化センターへと向かいました。ご挨拶と販売担当はもちろん、僕と保科さんです。
「10人ぐらいお客さんが来てくれればいいかな」
そう思って会場に到着すると、500人ほどの行列ができていたんですよ。
「こんな時期によっぽどの大スターでも来るのかな?」と思い、駐車場にいた人に「すみません、今日は誰のコンサートがあるんですか?」って聞きました。そしたら「な〜に言ってんだよ、社長。あんたんところの商品を買いに来たんだ。社長たちにも直接、会ってみたかったしね」と返ってきたんです。結局、その会場では120万円もの売り上げがありました。
その経験で痛感しましたね。やっぱり商売っていうのは怠惰であってはならない。自分の時間の許す限り日本全国を回ってお客様とお話をしていきたいなと。同時にCMも飾らず、これからも素のままやっていこうと、改めて心に決めました。
石田重廣(いしだ・しげひろ)株式会社夢グループ、株式会社ユーコー代表取締役社長。1958年7月1日生まれ、福島県出身。自ら出演する「夢グループ」のテレビショッピングが大人気。昨年、保科有里とのデュエット曲「夢と…未来へ」で歌手デビュー。
*週刊アサヒ芸能2月9日号掲載