思春期の少年少女の性への好奇心などを描き、平均視聴率20%超を誇った伝説のコメディドラマ「毎度おさわがせします」(85年、TBS系)。中山美穂のデビュー作ともなったが、主人公・大沢徹役で大ブレイクを果たした木村一八(53)が、ドタバタ劇に込められた真の「意義」を語る。
「あのドタバタコメディの裏にあったのは、性教育ができない日本の親に対して、性教育の必要性を訴えること。だから、(刺激的なセリフなども)ハレンチに聞こえない。今もそうだけど、日本には性教育がちゃんとできない親が多すぎるんだ。これはやはり異常だと思う。あのドラマにはそんな背景があった」
もっとも木村自身は、子供の頃からしっかりと親に性教育を受けてきたそうだ。
「そんなことまで教わったの? ということまで教わった(笑)。避妊用具の着け方もちゃんと教わったしね。親はおじいちゃんから、それを教わっていた」
言わずもがな、木村の父親は不世出の天才漫才師・横山やすし(享年51)である。「あのやっさんだったら〜」と、早期の性教育もさもありなんと思う向きもあるかもしれないが、子供への性教育の必要性が問われている現状を思えば、慧眼だったと言えよう。そんな裏テーマを秘めたドラマだが、その肝はやはり笑いにあった。
「性教育に対する当時の歪さを、風刺するように笑いに落とし込んだ(脚本家の)畑(嶺明)さんがすごいということ。どんなテーマでもコメディである以上、笑えなければ面白くない。逆に笑えたから全部オッケーだったんじゃないかな」
木村はそう語るが、放映当初はそんな解釈をする視聴者はまだ少なく、特に思春期の子供を持つ親たちは過敏に反応。刺激的な内容に少なくない反発を示したが、しかし─。
「確かに第1話から3話までは『子供に見せちゃいけない番組』のトップだったの。ところが、第4話を境にガラッと風向きが変わってね。逆にこれは(性教育として)子供に見せたほうがいいと、PTA推奨番組になったんだ」
要するに、木村が言う真のテーマが視聴者に伝わるまでに3話分、3週間かかったということ。それでも、保守的だった時代背景を考えれば、驚くべき変化と言えよう。その劇的な失地回復は、木村たち若いキャストの熱演、そしてすべて笑いに落とし込んだ畑氏の脚本が秀逸だったという証左ではないだろうか。
「(中山演じる)のどかがグレている理由は、彼女の家庭が(親の不貞などで)壊れてしまっているから。当然、親子の間でも会話がない。だから、ああなる。でもそんな(家庭崩壊を映した)シーンのあとでも、家中ひっくり返して全員で追っ駆けっこするドタバタで終わる。まるでドリフのコントみたいなんだ。あれは本当に練り込んでいたと思うよ」
スタート当時の子供に見せたくない番組ナンバーワンから、性教育のお手本とまで変化した名作コメディ。それだけに、出演者だけが知っている撮影中の「秘話」も枚挙にいとまがない。
「ドラマの中で同世代の親子が憧れるシーンがあった。それは小野寺(昭・79)さんと徹の入浴シーン。実はあれ、畑さんの脚本にはなかったの。小野寺さんの〝わがまま〟で作られたシーンなんだよ」
思春期の息子と父親が、裸の付き合いで理解を深めていく─そんな名シーンが、小野寺のわがままとは?
「小野寺さんには当時、カツラ疑惑があったらしいの。ホントは単に毛量が多いだけなんだけど。でも、本人はその疑惑を晴らしたいと。だから、入浴のたびに小野寺さんは必ずシャンプーをしている(笑)。それが名シーンになっちゃったんだよ」
小野寺といえば「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)の〝殿下〟に象徴されるように正統派俳優のイメージが強い。そんな彼がカツラ疑惑を気にして、結果的に名シーンを「作った」というのは実に笑える話ではないか。
その他にも、聞きたい「裏話」は山ほどあるのだが、最後に〝あのシーン〟についてだけは聞いてみたかった。中山美穂が下着姿となって、木村を誘惑する場面だ。あれは本当に中山だったのか?
「あれが気になって仕方ないヤツばかりなのよ(笑)。それに対して俺が言えるのは『答えられない』だな。まあ、永遠の謎だよ」
本人であったのならば、推薦するのはPTAだけではなくなるのだが‥‥。