医療の研究だけではない。書籍「金日成長寿研究所の秘密」には、金日成のために食品を開発・生産する部署の存在が記され、〈忠誠一号と呼ばれるたんぱく質リンゴ〉や〈五穀のビタミンが入った米〉を新種の代表例に挙げている。
「やはり重要なのは食事。金日成政権時代、平安南道安州市の雲谷というエリアに広大な農場が作られた。ここでは何十種類もの家畜を育てていて、黄牛(黄褐色の毛色の牛)や無菌豚、ラクダやフランスから取り寄せたアヒル、黒色の烏骨鶏など、体にいいとされる様々な食用肉が生産されています。また、金一族が食べる牛肉にはビールを飲ませるなど、人民がとても口にできないような飼料を与えているとも聞きます」(李教授)
今年2月末には韓国統一省が「北朝鮮の一部地域で餓死者が続出している」と深刻な食糧難を公表したが、金正恩一家の「専用農場」には莫大な資金が投入されていた。
「この雲谷地区は、日本の警察にあたる人民保安省(社会安全省)が3000人体制で警備にあたり、特別列車でしか中に入ることはできません。ここで働く人は飢えることはありませんが、外には出られません。職員の子は、地区内の大学で畜産技術を学び、代々、金一家に食肉を提供するために奴隷のように働かされることになります。1年間で3億ドル、4億ドルもの資金が投入されるので、ひとつの独立した王国と言っていいでしょう」(李教授)
こうして生産された肉はよほどうまいに違いない。当の正恩氏は幾度も「激太り」が報じられ、「高血圧」「心臓病リスク」を指摘する専門家の声も少なくない。
「一時はダイエットに成功したようですが、リバウンドして現在の体重は150㌔とも言われています。タバコはやめられず、多い時は1日にワインを10本も飲んでいると言われ、体調不安はぬぐえません。この調子では長寿研究が無駄になってしまうおそれもあります。(父の)金正日は70歳までしか生きられなかったし、金正恩は何歳まで生きられるか。長寿を研究させるなら、野良仕事でも手伝えと言いたいですよ」(李教授)
いつ不測の事態が起きてもおかしくない状況だが、北朝鮮の医療体制について、高氏はこんな見解を示す。
「ロイヤルファミリーを含め、一部の平壌市民が享受できる医療体制は発展途上国の中では、中レベルではないか。それほど劣悪ではないと思います。あまり知られていないことですが、北朝鮮と外交関係を結ぶキューバは、世界の最先端を行く医療先進国。そのキューバから、医療関連の技術提供を受けていてもおかしくありません」
依然としてミサイル発射を続ける北朝鮮の一番のリスク要因は、総書記の健康状態なのかもしれない。