「アントニオ猪木を語り尽くそう」(4)「てめぇ、この野郎!」ってやっちゃった/夢枕獏×ターザン山本×小佐野景浩スペシャル座談会

夢枕 猪木さんは、あまり細かいことを考えていないですよね。京都で取材した時に、猪木さんが「僕の知ってる店に行きましょう」って、連れて行かれたのが、看板のないお店。その瞬間に一緒にいた編集者が青ざめて「獏さん、現金いくらぐらいありますか?」って。猪木さんは取材費がいくらとか全然考えてない(笑)。凄くうまいすっぽん料理でしたけど、僕が10万ぐらい出したんで、20万ぐらいだったんじゃないですか。

山本 僕は猪木さんだったら、やっぱり女性問題が面白いよね。

夢枕 猪木さんが坊主にしたことがあるでしょ(※86年5月に写真週刊誌「フォーカス」に不貞現場を撮影されて、けじめの坊主に)。会った時に「猪木さん、どうだったんですか?」って、勇気をもって聞いたら「自分が恥ずかしくなった」って言ったんですよ。「何で恥ずかしかったんですか?」って聞くと、「自分には妻がいるのに22〜23の若い女性と付き合っていて、いつかフラッシュがパッと光るのは覚悟していました。その時にアントニオ猪木はどうあるべきかってシミュレーションしていたんです。ところがフラッシュが光った瞬間に全て忘れて〝てめぇ、この野郎!〟ってやっちゃったんですよ。それで俺は恥ずかしくて坊主にしたんです」と言ってましたよ。

山本 そこは猪木さんの瞬発力ですよ。本能というのか。だから学生に「腹を殴ってもいいですか?」って聞かれて、思い切りやられた瞬間に反応してビンタをやったんですよ。

小佐野 大晦日に「百八つの闘魂ビンタ」っていうのもやりましたよね。

山本 あれも俺のアイデアだよ(笑)。「猪木さん、百八の煩悩にかけてやってください」って言ったのは俺です。そうしたら本当に百八つやったんですよ。猪木さんは計算外のことをやる時が無意識で一番いいんですよ。昨日、猪木vs大木金太郎の映像を観たんですよ。試合前に猪木さんが大木をぶん殴った。あんなのは瞬発力ですよ。

小佐野 試合前のあの一発で事実上、勝負は決まっちゃいましたからね。あれがアントニオ猪木ですよ。

夢枕 キラー猪木ですね。

山本 瞬発力でやるから、嘘がないんですよ。計算されてないからね。

夢枕獏:作家。77年のデビュー以降、数々の文学賞を受賞する一方でプロレス・格闘技の熱心な信奉者としても知られる。テレビで放送された猪木の試合は全て観ているというマニア。

ターザン山本:元「週刊プロレス編集長」としては、むしろジャイアント馬場に近い存在だった。しかしアントニオ猪木に煙たがられる存在となりながらも、実は人生を賭けたほどの大ファン。

小佐野景浩:元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。高校時代に新日本プロレスのファンクラブ「炎のファイター」を立ち上げた生粋の猪木信者。

*週刊アサヒ芸能1月5・12日号掲載

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