「アントニオ猪木を語り尽くそう」(5)リングに上がると全部自分の発案に…/夢枕獏×ターザン山本×小佐野景浩スペシャル座談会

 選ばれし「猪木病」信者3人が絶妙なその遺伝子を語り尽くす。闘魂はリングで数々のドラマチックな結末を見せてくれた一方で、観客に大暴動を起こさせたことも‥‥。はたして座談会の着地点はどちらに転ぶのか─。

ターザン山本 猪木さんっていうのは、自分のことをまったくわかってない人なんです。無意識が猪木さんの全ての根源なんだけど、それを猪木さんはわからないんです。わかってないことが、あの人の武器みたいな。わかったら、答えが出たら、もう終わりじゃないですか。だから永久に猪木さんは自分自身に答えがない人で、僕たちも答えがない。

夢枕獏 つまり、我々は猪木さんについて何を語ってもいいっていう世界ですよね(笑)。

山本 適当に喋ってるんだもん、自分自身のことをわかってないから。自分自身の無意識と意識の整合性がないのが猪木さんですよ。

小佐野景浩 猪木さんは世界格闘技連盟UFOを立ち上げた頃、「格闘芸術とは」って言ってましたけど、何を頭に描いているのか、さっぱりわからなかった。

山本 猪木さんは何も考えていない人だから、猪木さんと村松友視さんが対談をやった時に2人が結論のないところで延々と禅問答をやってる。まとめようがないもんねぇ(苦笑)。

夢枕 禅問答といえば、人が坊さん以外の人を拝むのを初めて見たのは、猪木さんを拝むお婆さん(笑)。撮影で京都の嵐山を2人で歩いていたら、修学旅行のバスから猪木コールがドップラー効果で近付いてきて。そうしたら前からお婆さんが下向いて歩いてきて、猪木さんにぶつかりそうになって、見上げた途端にびっくりして手を合わせて拝んだんですよ。たぶん、馬場さんと猪木さんの区別もついていなかったと思うんだけど、テレビで観た凄い人がいるっていうオーラに負けて手を合わせたんだと思うんですよね。

山本 猪木さんと村松さんが別府温泉の泥風呂に入って対談をやって、その泥風呂は混浴で、入ってきたお婆ちゃんが「ジャイアント馬場さんですね」って。それで猪木さんが滅茶苦茶ショックを受けて、村松さんが大笑いしたという(笑)。

小佐野 リング上の猪木さんについては「俺には力道山の〝ぶっ殺してやる!〟っていうのと、カール・ゴッチの〝勝つためには相手の目ん玉をくり抜いてでも〟というのがあるから、相手がそれを勝手に見越すというか。まあ、俺もちょっとズルいんだけど」と、ご自身が語っていました。

夢枕 なるほど、実際にやらなくてもいいのか。‥‥やっちゃったけど(笑)。

山本 猪木さんには、プランとデザインは何もないんです。それをマスコミや新間さんが考えて。カール・ゴッチをプロレスの神様にして、新日本のストロングスタイルのアイデンティティーにしようと考えたのは櫻井(康雄=東京スポーツ)さんとかのブレーンなんですよ。東スポは販売促進のために猪木&坂口とテーズ&ゴッチの世界最強タッグ戦とか猪木とストロング小林という力道山vs木村政彦以来の日本人対決を企画した。柔道のウイリエム・ルスカを連れてきたのはアマレス協会の福田(富昭)さんだから。

夢枕 それって才能じゃないですか。人が神輿を作って「乗ってください」って言われて「はい、はい」って乗れば、それが猪木さんの作品になるんだから。

山本 何も考えてないのにいざリングに上がったら、全部自分の作品にしてしまうんですよ。作品にした瞬間に、初めから猪木さんが考えたことになるという。

夢枕 猪木さんが自分で考えたものって?

山本 何もない(笑)。

小佐野 タイガー・ジェット・シンにサーベルをくわえさせたのは猪木さんですよ。ナイフをくわえた宣材写真を見て「こんなんじゃしょうがねぇ。サーベルでもくわえさせてみろよ」と。それで〝インドの狂虎〟というヒールに仕立て上げたわけですから。

夢枕獏:作家。77年のデビュー以降、数々の文学賞を受賞する一方でプロレス・格闘技の熱心な信奉者としても知られる。テレビで放送された猪木の試合は全て観ているというマニア。

ターザン山本:元「週刊プロレス編集長」としては、むしろジャイアント馬場に近い存在だった。しかしアントニオ猪木に煙たがられる存在となりながらも、実は人生を賭けたほどの大ファン。

小佐野景浩:元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。高校時代に新日本プロレスのファンクラブ「炎のファイター」を立ち上げた生粋の猪木信者。

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