「私に言わせれば〝しかけてきた〟」。12月14日、東京・豊島区の高野之夫区長が会見で述べた発言に周囲は驚いた。行政が民間の商取引に口を差しはさむこと自体が意外だし、語気は何とも荒い。明らかな戦闘モードなのだ。
「セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう・西武をアメリカの投資ファンドのフォートレスに売却するとされたのが今年11月のこと。そのフォートレスはこの買収に当たって、家電量販店のヨドバシHDをビジネスパートナーとし、そごう・西武の再建に当たるとしていました。だから既にヤマダ電機の日本総本店やビックカメラのある西武の本拠地池袋では、『家電大手3つ巴の戦いが勃発』『池袋が秋葉原になる』などとヨドバシ進出を後ろ向きに捉える向きはあったのですが、まさか区の行政トップがこんなに敵意ムキ出しにするとは誰が予想したでしょう」(経済ジャーナリスト)
さらには西武HDの後藤高志社長宛てに嘆願書も届けていたことが直後に判明した。
高野区長の反対理由は、おおよそ家電競争の激化や西武デパートからのブランド店の撤退、既存の顧客や富裕層離れなどを危惧してのもの。確かにヨドバシが参画するとなれば西武デパートの入居テナントは見直され、1階部分はともかく低層階に家電フロアが入るのはほぼ確実と見られていた。そうなるともはや「文化が失われる」と高野区長は言っているのだ。
そこで当然、「なんでヤマダやビックカメラは良くて、ヨドバシはダメなの?」という声が上がる。ただ近年の高野区政の取り組みを見返すと、反対する理由もおぼろげながら浮かんで来る。
「元岩手県知事で現・日本郵政トップの増田寛也さんを中心とした日本創生会議が、過去の人口動態から将来の激しい人口減少が見込まれる消滅可能性都市を公表したのが2014年のこと。池袋のある豊島区もその中に含まれていたことから多くの人が驚きました。そこで高野さんはとりわけ文化の発信力のある若い子育て女性の住みやすい街作りに取り組みました。その大きな成果の1つが南池袋の再開発です。池袋東口から真っすぐ伸びる大道路の右側の区画ですが、15年に49階建てのマンションと一体化した新区庁舎をオープンし、16年には南池袋公園をリニューアルさせました。以前の公園は人が近寄りがたい雰囲気でしたが今では広い緑があって女性が好みそうなカフェを併設しています。新区庁舎は民間の力を活用して建設費は実質0円ということで、全国の自治体から視察が殺到。新しいランドマークになっています」(同)
そんな努力の甲斐あって、今や池袋は住みたい街ランキングの上位に位置するようになったのだが、その街の起点に池袋西武があるのだ。1階には高級ブランド店が入居していかにも百貨店らしい高級感が漂うが、ここに家電量販店が入ったのでは、文化的な香りが失われてしまうと、おそらくは高野区長は考えているのではないか。
急遽高まった豊島区VSヨドバシカメラの緊張関係だが、来年4月にはあっけなく解消されるかもしれない。というのも高野区長の任期が切れるからだ。高野区長は昭和12年の生まれで、クリスマスに誕生日を迎えて85歳になる。しかも既に6期もやっているのだからさすがに続投はなさそうなのだが、怒りの調子からすれば意気軒高で、もしかして7期目の出馬も‥‥果たしてどうなるやら。
(猫間滋)