強豪フランスが“順当に”勝ち上がった準決勝、試合を支配したのはモロッコだった

 W杯グループリーグを盛り上げたのは日本代表かもしれない。でも、大会全体を盛り上げてくれたのは間違いなくモロッコ代表だ。

 モロッコは準決勝で前回王者のフランスに挑んだ。見どころは、フランスの攻撃力をモロッコの守備がどこまで抑えられるか。
 
 ここまでのモロッコは初戦で前回準優勝のクロアチアと引き分け、2戦目には世界ランキング2位のベルギーを撃破。決勝トーナメントに入っても1回戦でスペインを破り、準々決勝でもC・ロナウド率いるポルトガルと優勝候補を次々破り、アフリカ勢初のベスト4進出を決めた。その原動力となったのが、5試合でわずか1失点、それもオウンゴールによる失点と、完璧ともいうべき守備力。フランス戦も前半を0-0で折り返し後半勝負。そんな絵を描いていたはず。先制すれば守り切れる、そういう自信もあっただろう。

 ところが試合は意外なスタートを切った。開始5分、フランスは右サイドでチャンスを作ると、逆サイドに上がっていたエルナンデスが叩き込み、いとも簡単に先制点を奪ってしまう。いきなり苦境にさらされたモロッコは、さらに21分に、キャプテンで守備の要であるサイスが負傷で途中交代。

 ゲームプランが大きく崩れたモロッコ。ひとつ間違えば大敗も予想できた。ところが、ここからモロッコは大反撃に出る。

 前半にも何度かチャンスを作ったが、後半に入ると堅守速攻が武器のモロッコが完全に試合を支配。1点リードしているフランスとしては、モロッコにボールを持たせてカウンターで追加点を奪いたいところだった。しかしモロッコの予想以上の圧力に最終ラインを下げられ、攻撃に出て行くこともできず、エムバペの個人の突破に頼るしかなかった。

 それでも後半34分、フランスがエムバペの個人技から途中出場のコロムアが押し込み逃げ切った。

 決めるときに決められるかどうかの差。といえばそれまでだが、モロッコの猛攻は素晴らしかった。フランスの守備が一瞬でも集中が切れたり、半歩でも遅れたら確実に同点にされていた。同点に追いついていたら、この試合はわからなかった。

 堅守速攻という自分たちのサッカーはできなかった。それでも前回王者のフランスを追い込んだモロッコの本大会での実力は本物だった。
 
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。

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