試合の解説席で熱狂し話題になった本田圭佑氏は、かつて選手として出場した14年のブラジル大会の記者会見で、いみじくもこんなことを語っていた。
「日本のストロングポイントはチームワークだが、それぞれが自立した選手になって個を高められるかが重要だ」
かの地で三浦知良(55)やラモス瑠偉(65)らレジェンド選手が涙にくれたのが93年のこと。29年経った現在、ようやく、世界と戦える「個」を手に入れた日本代表が、今回のW杯で躍動したというわけだ。
出場選手を見ても、強豪リーグでしのぎを削る選手がそろっている。決勝点をアシストした三笘薫(25)は、英・プレミアリーグのブライトンに所属。試合後、ライン際のボールをギリギリで蹴り込んだことについて「脚が長くてよかった」とおどけてみせた。
同点弾の堂安も独・ブンデスリーガのフライブルクの選手で「逆になんで、あんなフリーになったのかわからないくらい。あそこでフリーにさせると堂安律は危ないんで。決めました」と、「ごんたくれ魂」を炸裂させ、ドヤ顔でインタビューに答えていた。
もはや、大国に名前負けする時代は終わった、と言わんばかりで、技術面だけでなく、メンタル面でも世界基準の選手が育ってきたことを感じさせるものだった。
「組織戦術」と「個」を融合させたチームを、この世界最高の舞台で作り上げた森保監督を、元日本代表キャプテンの森岡隆三氏は次のように評する。
「温和で誠実、というイメージどおり、スタッフや選手への気配り、ケアを欠かさず、しかもそれが打算的じゃなく、心の底からできる。そして、ただ優しいだけじゃなくて、試合後の円陣の映像などを見てもわかるとおり、その奥には情熱的で熱い素顔もある。自分の中に明確な信念というか、ブレない軸を持っている人だと思います」
小島氏も同意して、こう結ぶ。
「森保監督も選手も、大会前から『ベスト8』を大きな目標として掲げてきました。スペイン戦もドイツ戦も全てはこのあとのクロアチアとのトーナメント1回戦で勝つためのステップ。本当に勝ちたいのはここなんです。全力を出して悔いなく戦ってほしいですね」
そして残念ながら、クロアチア戦には延長まで戦って1-1の末、PKで敗れた。違う景色を見るチャンスは4年後に持ち越されたが、少なくともその輪郭は今回はっきりと見えた気がする。
*週刊アサヒ芸能12月15日号掲載