2度目の奇跡が起きた。
スペイン戦のヒーローは間違いなく背番号8を付けた堂安律だ。
前半を0-1で折り返すと後半、久保建英に代わって登場。そしてわずか3分、得意の右45度から左足を一閃。ドイツ戦に続き同点ゴールを決めた。さらにその3分後、ラインぎりぎりからの三笘薫のクロスを田中碧が押し込み逆転。この三笘へのグランダーのクロスを出したのが堂安だった。しかもスペイン代表の左サイドバック、19歳のバルデの股抜きクロス。まさに2得点に絡んだMVPの活躍だった。
堂安といえば、若いころから注目され順風満帆のサッカー人生のように見えるが、必ずしもそうではない。
U-19アジア選手権で優勝してMVPにも選ばれたが、チームのエースはストライカーの小川航基(当時・磐田、現横浜FC)だった。
翌年のU-20W杯でも注目は小川だった。ところが2戦目のウルグアイ戦で小川が大ケガを負いチームを離脱。それを救ったのが堂安だった。4試合で3点を決め決勝トーナメント進出に貢献。一躍、東京五輪のエース候補に名乗りを挙げた。
しかし、エースナンバー10番を付けて参加した東京五輪では6試合でわずか1得点。3得点を決めた久保に主役の座を譲ってしまった。
19歳でオランダに渡り、フローニンゲンで2シーズン所属し、その活躍を認められて名門・PSVに移籍したが思うような成績を残せず、2020年にドイツ、ビーレフェルトにレンタル移籍。全試合に出場する活躍を見せ、完全移籍の可能性もあったが成立せず、PSVに復帰。カップ戦優勝に貢献し、自ら「もっとレベルの高いリーグでプレーしたい」と今季からドイツ、フライブルクでプレーしている。
紆余曲折あったが、常に上を目指してきた。日本代表で付けている背番号8についても特別な思いがあった。堂安がそれまで付けていた背番号は21。8は前回のロシアW杯から原口元気が付けていた。その原口が最終26名のメンバーから外されたことで、背番号8が堂安に巡ってきたのだ。
それは偶然ではない。2人はお互いを「律」「元気くん」と呼び合う仲で、代表でも室内のトレーニングではいつもいっしょ。プライベートで2人の写真をSNSにアップすることもあった。サッカー協会のJFL・TVでW杯の思い出やカタールW杯に向けての意気込みを語る対談もやった。背番号8を堂安にというのは協会の計らいもあったのだろう。しかし堂安はすぐに承諾せず、原口に連絡した。原口から、
「(背番号8は)律に付けて欲しい」
と言われ決定したいきさつがあった。
堂安にとって代表の8番とは、4年前のベルギー戦で原口がゴールを決めた縁起のいい番号だった。
ドイツ戦の同点ゴールは2019年のベトナム戦以来の代表でのゴール。途中出場で2得点と背番号8はしっかりと受け継がれた。次にゴールを決めれば日本人初の大会3得点になる。そのゴールが日本の歴史を変えられるか。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。