前後半で27分も…W杯「長すぎるアディショナルタイム」でが引き起こした紛議

 前後半合わせてなんと27分! サッカーW杯で「長すぎるアディショナル・タイム」が話題になっている。
 
 大会2日目の予選Bグループのイングランド対イラン戦。前半は14分のアディショナルタイムがあったが、これはイランのGKが顔を負傷したために治療に多くの時間が割かれたので、分かる。ところがとりたてて大きなアクシデントがなかった後半も13分あった。計27分はもはやアディショナル(追加の)な時間とは言えず、前後半15分ずつの延長戦に等しい。

 確かにこの試合はとりわけ長かったが、他の多くの試合でも10分前後のアディショナルタイムが取られている。さすがに長すぎるのでは?という意見が出てくるのも当然だろう。

「そもそもなぜサッカーの試合時間が90分なのかについては、サッカーの母国イングランドで行われた過去の試合から自然発生的に定まったもので、特に理由はありません。一方でサッカー観戦をする視聴者の不満として、必要以上に選手がファウルを受けたことをアピールしたり、選手交代でわざと歩いてピッチを去ろうとしたり、だらだらプレーへの苛立ちがあります。そこでサッカーのルールを制定する国際サッカー評議会(IFAB)が17年にサッカーの試合時間を60分とする案を打ち出したことがあります。理由は、実質的には有効なプレーは60分しか行われていないからです」(スポーツライター)

 60分に凝縮すればもっとスピーディーな試合展開になるだろうとの計算からだが、一方で有効なプレー時間確保のためにアディショナルタイムを厳密に取ることも掲げられて、今大会のように異様に長い試合が相次ぐことになった。評議会は16年には「ビデオ・アシスタント・レフェリー」(VAR)の導入も提案、了承されて、実際に現在運用されている。これもアディショナルタイムを長くしている大きな一因だが、いずれにせよ厳密な試合時間の確保に努めた結果、件の試合ではイランが102分30秒にPKで1点を挙げて、W杯史上「最遅」のゴール記録となった。この記録は今大会中に破られるかもしれない。

 90分という時間はテレビ放映に向いていると言われる。試合の前後とハーフタイムを入れてちょうど2時間ほどで納まるからだ。だが今や映画を倍速で見る時代だ。若者離れが進むテレビの都合自体が時代に合わなくなっているのかもしれない。

「21年にはヨーロッパサッカーの5大リーグの強豪チームだけでリーグ戦を行うという『欧州スーパーリーグ』構想というものが持ち上がったことがありました。ところがサッカー総本山のFIFA(国際サッカー連盟)までをも敵に回したこの構想も、ビッグクラブの独りよがりなビジネス至上主義との批判を受けて結局は頓挫しましたが、構想の中心の1人、レアル・マドリードの会長はやはり特に若者にとって90分の視聴時間は長すぎるとして、試合時間短縮のプランを語っていました」(同)

 ムダな時間の排除と有効なプレー時間の確保はなかなか両立しづらい。だがやはり長すぎる試合は勘弁という意見が多数派だろう。W杯後、様々な検証が行われながら、「60分」論議が再び頭をもたげそうだ。
 
(猫間滋)

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