ABEMA「W杯全試合放送」大博打の裏に「ウマ娘」ヒット食いつぶし

 ドイツ、スペインという優勝経験のある両国を予選で撃破し、日本でも大いに盛り上がった昨年のサッカーW杯。そしてこの大会の全64試合を中継したことで大いに存在感を示したのがABEMAだ。その親会社であるサイバーエージェントは1月25日に23年9月期の四半期決算(22年10〜12月)を発表したのだが、結果は12億円の赤字だった。

「売上高は前年同期比で少しマイナスでしたがあまり変わらない一方、営業損益が12億円の赤字でした。サイバーエージェントが赤字を出したのは20年ぶりで、前年同期が198億円の黒字だったので、この期間がいかに収益で大きく凹んだかが分かります」(経済ジャーナリスト)

 もちろん一番大きな理由はW杯の放映権獲得で巨額の資金を投じたからだ。その金額は200億円ほどと見られ、極めて雑などんぶり勘定で言えば、前年同期から落ち込んだ金額とだいたい同じ額になる。

 だが同日、藤田晋社長は会見でABEMAの週間利用者数が12月のW杯期間中は最高で3409万人にも達し、その後も1月の第1週は1766万人もいて、視聴者の開拓で成功したことを誇った。確かに前年同期は1243万人だったというから、42%も増えていることになる。自身が「大博打」としていたように、収益を捨てて実を取ったということか。

 ところで同社がそんな大バクチに打って出られたのも、スマホ向けゲームアプリとPCゲームの「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒットしたからだ。

「ところがヒット時はゲーム事業の四半期の最高数字で442億円の営業利益があったものが、今四半期では52億円で、前の四半期と比べても約7割も落ちています。ここ最近の四半期の数字ではデコボコがあるものの、売り上げと利益はウマ娘のヒット前のレベルに落ちています。いわば通常の状態に戻ったわけで、それもあって結局は巨額投資がそのまま会社全体の足を引っ張ったかっこうですね」(同)

 だから株主へのお詫びというか新たな投資家集めというか、株主優待の新設も発表したのだが、これがABEMAのプレミアム利用料の無料クーポンというから、相変わらずの〝ABEMA推し〟は変わらない。いやむしろ大バクチでABEMAの地位を高めたのだから、ここを勝負時と見ているのだろう。

 となれば更なる驚きが飛び出てくるのを期待はしたいが、さすがにもう無い袖は振れないかもしれない。

(猫間滋)

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