「大阪万博」強行で来る「府民総ビンボー化」時代(3)夢洲の土壌問題を隠したまま…

 ところがIRに対して、大阪府民からは反対の声が根強いことから計画は遅れに遅れている。肝心のIR構想も当初より5年ずれ込み「29年の開業を目指す」(松井大阪市長)というが難題は山積だ。IRに対する激しい反対運動にさらされ、7月には市民団体が約20万人の署名を提出。「カジノの賛否を問う住民投票」を請求したこともあった。社会部記者が続ける。

「これだけの署名を集めても、大阪府議会はわずか半日の審議で否決した。住民投票となれば都構想のように否決されかねないので、この慌てようです。様々なメディアの世論調査でもIRには否定的な意見が多数で、『凍結すべき』が過半数を上回る新聞社もあったほど。外資のIR業者にしても、この不況下では経済的にも今の日本に進出する旨味を感じていないと言われていて、IR構想実現まではまだまだ予断を許さない状況です」

 開幕を3年後に控えた11月3日には御堂筋ランウェイのイベントで、人気お笑いコンビのダウンタウンまで担ぎ出し、吉村府知事、松井市長がそろい踏みで万博開催をアピール。そのはしゃぎぶりたるや順風満帆そうに見えるが、赤字を垂れ流す万博開催の補填策として、IRがセットでなければ、大阪の財政が致命的な大ダメージを受けることは必至。加えて、莫大な予算をかけて整備する交通網についても、

「万博の開催だけでは賄いきれない」

 と大阪万博について調査を進める社会学者もこう補足する。

「新大阪駅と夢洲を結ぶシャトルバス専用道路の淀川左岸線2期工事は18年に着工しています。当初の事業予算は約1162億円。ところが、土壌汚染や沈下対策の工法変更によって2900億円まで増えてしまった。地下鉄の延伸も250億円が360億円に膨れ上がる計算です。これほど費用をかけて万博だけの開催はあり得ない。万博後、IRが実現しないと赤字路線になってしまう。万博自体の開催を含めて、凍結も視野に入れるべきでしょう」

 これほど逼迫した状況なのに、なぜ大阪府民は万博開催を歓迎するのか。

「万博開催については、高齢者世代に懐かしい響きがある。何しろ、高度成長期の1970年に開催された大阪万博への郷愁が大きい。さらに08年の橋下徹大阪府知事の出現によって、大阪維新の会は絶大な信頼を得ている。『既得権との闘い』と銘打った府市行政との対立を連日のように目にし、メディアを巻き込んだ劇場型スタイルの〝喧嘩〟に府民は酔いしれ、維新を後押ししているのです」(社会部記者)

 阪神とカミさんの悪口がもっぱらだった大阪の居酒屋で政治論争が頻繁に聞かれるようになったのも、「大阪維新」登場以降の現象だ。元大阪観光局関係者が明かす。

「ただ15年に大阪都構想が否決されて、橋下さんが勇退すると維新の評価が割れ出した。しかしながら、残された政策の中で、維新が最も成果を挙げた事業がインバウンド。だからこそ、維新と対立するメディアの中には堂々とこううそぶく記者もいた。インバウンド事業の部門で不祥事があれば維新に大打撃になる、と」

 だが、あれほど歓楽街に溢れかえった外国人観光客も今は見る影もない。大阪の経済を牽引したインバウンド需要はコロナで霧散し、景気の悪化は地価下落にも現れている。

「昨年に続き、全国の地価の下落率でワーストを飾ったのが大阪のミナミです。10位中8カ所がミナミで、最も地価が下落した道頓堀の旧づぼらや界隈はマイナス15.5%の暴落ぶりです」(デベロッパーの営業マン)

 景気が傾こうとも昨年の衆院選では維新が大勝。自民党が完膚なきまで大敗したように、維新は大阪で確固たる支持層基盤を保つようになった。しかも、吉村人気もいまだに健在だ。

 ジャーナリストの一ノ宮美成氏はこう警鐘を鳴らす。

「夢洲駅の土壌汚染の問題が非常に深刻で、PCBが基準の20倍も検出された。浅く掘ってこれだけの数値で、万博会場の地耐力を示すN値も非常に軟弱との報告が上がっている。特に問題なのは、大阪市がこのデータを隠して国交省に渡していないこと。不信感を抱いた審議官が非常に慎重になっているそうだ。この事実を知らずに国交省が認可でもすれば、森友学園の二の舞いだ」

 今年の秋に認可予定だったスケジュールは延期で、今後も不透明だという。深刻な土壌汚染と軟弱地盤。莫大な予算を割いて開催する意義は本当にあるのだろうか。

*週刊アサヒ芸能11月10日号掲載

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