「氷の皇帝」ヒョードルはロシア人の懲役逃れを嘆くが、訓練はたった2日「1分で小隊全滅」の現実

「氷の皇帝」「ロシアン・ラストエンペラー」「人類最強の男」‥‥そのあまりの強さから総合格闘技界でありとあらゆる称号でたたえられたのが、ロシアのエメリアーエンコ・ヒョードル(46)だ。リングスの大会で来日した2000年からPRIDEを経るなどして2010年に負けを喫するまで「10年間無敗」。その多くの時期を日本の大会で闘ったことから日本でも絶大な人気を誇った。

「そのヒョードルが先日、ロシアのスポーツメディアの取材に答えて、ロシアが部分動員を行った際に多くの若者が兵役逃れをした現実について語り、『少しショックでした』との感想を述べています」(スポーツライター)

 ロシアのウクライナ侵攻をどう受け止めるかについて、有名人の発言はその都度注目を集めてきた。例えば06年のトリノ冬季五輪で金メダルに輝いたフィギュアスケートのエフゲニー・プルシェンコは、プーチン支持者として非常に肯定的な発言をしている一方、男子テニスのアンドレイ・ルブレフは試合後にテレビカメラに「戦争はやめて」と否定的な態度を取ったことがある。

 だがどうもヒョードルの場合は「少しショック」と控えめで、またニュアンスも微妙なのだ。現状についても「個人的には不安はありません。全ては神の手の中にあります」と、これまた微妙。

「ヒョードルはウクライナ東部でロシアと国境を接するルハンシク州の出身です。いわゆるドンバス地域で、侵攻の原因とされた場所です。ただヒョードル自身は95〜97年にロシア陸軍の消防隊と戦車師団に所属して、曹長で兵役を終えています。加えて国の英雄ですから、非常に複雑な心境だと思われます。今年4月にはロシアの総合格闘技組織の監査役を突然辞任したので、この時もやはりウクライナ侵攻との関係が取り沙汰されています」(同)

 ちなみにヒョードルは現在も現役。12年にいったん引退するも、15年に復帰。昨年引退を表明し、今年7月に「赤の広場」で計画されていた引退試合が取りやめとなって、ここでも戦争が複雑な影を落としている。

 ヒョードルは今月、部分動員令により数百人の総合格闘技選手が徴兵されたことを明かしたが、ロシアの前線は相当な苦難を強いられているのが現実。死地に赴きたくないと、兵役逃れが続出するのも仕方がない。

「例えばウクライナ保安庁がテレグラムに上げた情報や、それを報じたウクライナのニュースサイトによれば、9月25日にドンバス地域のハリコフ州の前線に送られたロシアの小隊は、わずか1分で全滅したとか。捕らえられて捕虜になった兵士は、追加で招集されてから2日間の訓練しか行われないまま前線に投入されたと証言しているようです」(全国紙記者)

 さらにはウクライナの兵士と対峙した時、「武器は豊富でしっかり訓練されていた。2人に1人は無線機やサーモグラフィー、暗視スコープを持っていた」と、自らの即席部隊とのあまりの違いに驚いたという。まるで先の大戦で太平洋諸島に送り込まれた日本兵の発言のようで、逆にその悲惨さがよく知れるのだった。

(猫間滋)

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