ロシア本土とクリミア半島を結ぶ「クリミア大橋」爆破を受け、プーチン大統領が「ウクライナの情報機関によるテロ行為だ」と断言したのは9日のこと。10日朝にはウクライナの首都キーウなど各地をミサイルで攻撃、報復がエスカレートの様相を呈してきた。
クリミア大橋は、18年にロシア政府が巨額資金を投じて完成。ウクライナ南部に展開するロシア軍への重要な補給路として使用されていた、クリミア半島とロシア本土を結ぶ全長19キロにわたる橋だ。
「今回の爆発についてロシア側は『トラックが爆発した』と主張、ウクライナ側もそれについては認めていますが、やったのは我々ではないとの主張は崩していません。ただ、イギリスのBBCなどは、ウクライナによる『海上用ドローン』説も報じており、真相が明らかになるのも時間の問題でしょう。とはいえ、この橋はロシアのクリミア半島併合の象徴。そこを攻撃されたわけですから、プーチンの面目は丸つぶれといっていい。結果、80発以上のミサイル攻撃により、キーウ中心部や8つの州でインフラ設備などが攻撃され、120人以上の死傷者が出るという惨劇が起こってしまったわけです」(軍事ジャーナリスト)
そんな最中の8日、ショイグ国防相は、ウクライナでの軍事作戦を統括する司令官に航空宇宙軍のセルゲイ・スロビキン総司令官を任命したと発表。同氏は2017年から航空宇宙軍の司令官を務め、ウクライナ侵攻では南部の部隊を指揮してきたとされるが、シリアでの戦闘経験も豊富な「完全な冷酷さ」で知られる強硬派なのだという。
「国防省のウェブサイトによると、スロビキン氏は04年のチェチェン共和国への軍事介入で駐留部隊を指揮してきたとありますが、英BBC(ロシア語版)の報道によれば、シリアでの民間施設への爆撃や化学兵器使用にも関与したと人物との指摘もあります。2月のウクライナ侵略開始後、国防省が総司令官の任命を正式発表したのは初めてで、軍としては強硬派として恐れられる同氏起用を内外に公にすることで、国防省への批判をかわし、同時に『この先は生物化学兵器の使用もアリだぞ!』といった脅しの狙いもあるのでしょう。スロビキン氏は、シリアの軍事作戦で『ロシア連邦英雄』の称号を得た男。ということは、すなわち勝つためには手段を選ばない超危険人物だということ。いよいよ“最終兵器”が投入されたわけです」(同)
先日の4州併合の調印式では、“ロシア領土”へ攻撃を受けた際は「あらゆる手段を放棄しない」として、核兵器使用も辞さないと断言したプーチンだが、スロビキン氏起用でさらにその可能性が高まったとも思えるのだが、前出のジャーナリストいわく、
「プーチンはこれまで幾度となく、非道行為を起こして敵のせいにする“偽旗作戦”という自作自演を行ってきました。ただ、ウクライナは核を持っていないため、仮にロシアが使用した場合は、さすがに言い逃れが出来ない。そこで懸念されるのが、核ではなくサリンなどの化学兵器の使用です。実際、プーチンは軍事介入したシリア内戦で化学兵器使用を事実上容認したと言われ、さらに自分に歯向かう反体制指導者に対し、神経ガス『ノビチョク』の使用疑惑もあります。そう考えると、核以前に化学兵器を使うほうが現実的ではある。つまり、今回のクリミア橋爆発への報復措置に、それらの兵器が使われる可能性は否定できないということです」(同)
「完全な冷酷」総司令官起用で「サリン」使用が現実にならないことを祈るばかりだ。
(灯倫太郎)