「第7波収束後に検討…」新型コロナ「5類引き下げ」を阻む壁とは

 厚生労働省の専門部会は、新型コロナウイルスの感染症法上の分類を見直すための検討を始めた。周知のとおり、新型コロナは現在「2類相当」に分類されているためにさまざまな問題が生じている。とりわけ医療や自治体の現場から要望されているのは、「全数把握」の見直しだ。医療ジャーナリストが言う。

「結核やSARSなどと同じ2類相当とされているためにすべての感染者を保健所に届ける義務があります。これが医療機関や保健所にとってかなりの負担となっている。報告をするために受診を制限したり、自宅療養者の状況把握が滞ったりと本末転倒の事態に陥っているところも。5類でも一部全件把握の対象になっている感染症がありますが、症状が似ている季節性インフルエンザは定点報告、つまり指定された医療機関のみが報告を義務付けられています」

 そもそも毎日発表される感染者数自体に、もはや意味はない。検査キットや人手不足で症状があるのに検査待ちの人が多数いて、実態を反映していないからだ。

「“天井効果”と言われ、ある一定の数以上は物理的に把握できないのです。現在、全国の感染者は1日20万人前後で推移していますが、実際には2倍〜数倍の感染者がいるともいわれます。こんな状態で全数把握などしてもほとんど意味はありません」(同)

 たしかに、発熱外来には連日多くの受診希望者があふれ列をなしている。なかには検査さえ受けられず医療機関での診察をあきらめてしまう人もいるようだ。軽症であれば一部自治体が導入している自主療養で済むかもしれないが、問題は重症化リスクのある人や、すでに症状が悪化した人が適切な治療を受けられなくなることだ。

 なぜ、これほど医療が逼迫するのか? 

「2類相当ということで指定された医療機関しか受診できないからです。自治体によっては、新型コロナを診られる医療機関が全体の3割に満たないところもある。扱いを5類に引き下げることで一般の医療機関でも診療ができるようになるのですが‥‥」(同)

 じつは、5類への引き下げについては医療の現場からは慎重な意見が多いという。これまで新型コロナに対応していなかった医療機関にとっては態勢づくりが大きな負担となるうえ、一般患者や院内スタッフへの感染拡大のリスクが増すから。現在は公費全額負担の受診料が一部自己負担になることで受診控えを誘発し、さらなる感染拡大につながることも危惧される。

 また、国からの支援金でやりくりしているコロナ対応病院は、これがなくなることで死活問題になるところも出てくると予想される。ほかにも、感染症法上の扱いが引き下げられ陰性証明が不要になれば、PCR検査を受ける人の数が大幅に減り、検査で潤っていた医療機関もかなりの減益となるだろう。

「岸田首相は『第7波が収束してから慎重に検討したい』などと悠長なことを言っていますが、BA.2.75=ケンタウロスも広がりつつあり、いつ収束するか予断を許しません。つまり、医療や自治体の混乱がいつまで続くのか見通しが立たないわけです。“コロナ利権”なるものがあるのかどうかわかりませんが、もしそのせいで議論が遅れているのだとしたら、この国の医療は“終わっている”と言わざるを得ません」(同)

 収束前にケンタロウスの第8波が襲ってくるかもしれない。

(加賀新一郎)

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