7月27日、北朝鮮で行われた朝鮮戦争休戦69年式典。その席で金正恩総書記は、韓国の尹錫悦政権が先制打撃する考えを持っているとして、「危険な試みは報復を受け、尹政権の軍隊は全滅するだろう」と、はじめて韓国大統領を名指しで威嚇、韓国国内に波紋が広がっている。
金総書記は演説のなかで「歴代のどの保守政権をもしのぐ極悪非道な同族対決政策に執着し、朝鮮半島を戦争の境目に導いている」と語り、「わが国の核戦争抑止力は万全の態勢にある。核保有国の前で生きなければならない宿命的な不安感から出発したものだ。絶対兵器を保有するわが国を相手に、軍事行動をあれこれ言うことは危険な自滅的行為だ」と厳しく断じたのである。
強気発言は毎度のことだが、北朝鮮は現在、新型コロナウイルス感染症による国境封鎖に加え、繰り返される水害や干ばつで、一部地域では住民が餓死するなど、経済状況は最悪だといわれる。
だが一方、今年に入ってからだけでも17回にわたり、弾道・巡航ミサイル33発を発射。米シンクタンクによれば、一発のミサイル発射にかかる費用は240億ウォン(約25億円)。最大で8000億ウォン(約818億円)を費やしたとの試算もある。
いったいこの国はどうやって、そんな莫大な資金を捻出しているのか。
「その答えはズバリ、国がらみでの仮想通貨ハッキングです。実際、昨年には北朝鮮ハッカーによる仮想通貨の取引所や投資企業に対する7件のハッキング事件が発生。合計3.95億ドル(約526億円)相当の仮想通貨が盗まれたことが、米国の調査により明らかになっています。この金額は前年度より約1億ドル(約133億円)も上回り、過去5年の合計額は仮想通貨だけで推定で15億ドル(約1990億円)。米国のブロックチェーン分析機関によれば、今年は昨年以上に北朝鮮の仕業と推定される仮想通貨ハッキング犯罪が相次いでいる。米政府は独自の制裁を強化するとともに、北朝鮮の仮想通貨ハッキング組織関連の情報提供報奨金を2倍に引き上げるなど組織壊滅を目指していますが、ミサイル計画を支える財源として、いまだ大きく貢献していると言われています」(北朝鮮問題に詳しいジャーナリスト)
北朝鮮ハッカーが、仮想通貨に目を向けた理由のひとつには、資金洗浄が比較的容易だったことが挙げられるというが、
「彼らは、仮想通貨の匿名性を高める『ミキシング』を行ったり、数十カ国の間を何度も資産移動させて、盗んだ仮想通貨の出所を分かりにくくしています。そして、盗んだ暗号資産をすぐには現金化せず、時間を経てほとぼりが冷めた頃を見計らって換金するという手口を使っているようです」(同)
今年4月には国連北朝鮮制裁委員会も、専門家パネルの報告書を通じて「仮想通貨資産に対するサイバー攻撃は北朝鮮の重要収益源」と指摘。米国ホワイトハウスのアン・ニューバーガー国家安保会議副補佐官(サイバー・新技術担当)も先月28日、「北朝鮮のサイバー活動が核心財源であることを勘案すれば、これは我々が必ず解決すべき問題」と述べ、さらなる注意喚起を促している。
金総書記の強気発言の裏には、ハッカーが稼ぎ出す潤沢な資金があったようだ。
(灯倫太郎)