近年、証券会社でも気軽に売買できることから注目を集める米国株。その成長性に着目し多額の資産を築いた厚切りジェイソン氏の投資本も大ヒットとなった。だが、現在のアメリカは景気後退が現実のものになりつつあり、IT株を中心に暴落する銘柄も少なくない。果たして、このタイミングで米国株による一攫千金は可能なのか。識者に聞いた。
今年の株式相場は年初から波乱含みだった。震源地は米国。激しいインフレ対策として、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げに舵を切ったことで、米国の株式市場は大きく乱高下を繰り返しながら、ダウントレンドを継続中だ。6月末の時点で昨年末と比較すると、NYダウ平均で約15.3%、ナスダック総合指数に至っては29.5%も下落している。ダウは、1962年以来、実に60年ぶりの大暴落。ナスダックも上半期の下げ幅としては、過去最悪を記録した。
米国株は、コロナショックでの下落以降、昨年末までほぼ一貫して上昇相場だった。コロナショック後に投資を始めた人にとって、今回の大幅下落は初の経験。それだけに不安を感じている人も多いようだ。
投資家の不安心理は、思わぬ〝騒動〟も引き起こした。主役はタレントの厚切りジェイソン氏。2021年に著書「ジェイソン流お金の増やし方」(ぴあ)を上梓。累計33万部超を売り上げ、株式会社オリコンが発表した今年上半期のベストセラーランキングで1位を獲得した。同書の中でジェイソン氏は「投資先は米国株がおすすめ!」「米国株を推しにするには訳がある」といった具合に米国株を推奨している。
そんなジェイソン氏が5月半ばに、運営するツイッターの投稿を全て消してしまい、話題となった。このツイッターは22万人余りのフォロワーを持つ人気アカウントであり、影響力も大きかった。それゆえに、同氏が推奨してきた米国株投資に逆風が吹いているため削除したのでは、との憶測を呼ぶことに。
この声を受け、ジェイソン氏はツイッターを更新。
〈笑。話題にしてくれてありがとう。米国株が長期で見たら大した暴落でもないよ。それは関係ない。SNSが嫌になっただけ〉(原文ママ。現在はこの投稿も削除されている)と、世間の風評を否定している。
この騒動の真偽はさておき、現在米国株に投資をしている人、あるいは検討している人にとって、その先行きは気になるところ。米国株の暴落を受けて、日本株も苦戦を余儀なくされているとなればなおさらだ。果たして専門家はどう見ているのだろうか。経済評論家の佐藤治彦氏はこう話す。
「ジェイソン氏の著書は売れましたね。うらやましい(笑)。でも、いろいろとタイミングが悪すぎ。確かに、2018年より以前から米国株に投資し続けてきた人のほとんどは、確実に儲けてきました。従って、米国株への投資自体がダメだったわけではありません。ただこの本が出たのは昨年の秋。このタイミングで米国株を買い始めた人は、収支がほぼマイナスになっているのではないか」
昨年11月、FRBが量的緩和の縮小を開始すると発表した。簡単に言うと、中央銀行が市中から買い入れる金融資産の額を減らすことだ。結果として、世の中に出回る金の量が縮小し、株式市場に向かう資金も減ることとなる。佐藤氏によると、この時点で専門家の多くは今年上半期の米国株下落を予想できたという。
元プロ棋士で株主優待生活の達人として知られる桐谷広人氏は、少し違った視点からこう話す。
「私が米国株投資を始めたのは昨年からです。経済誌の企画で米国株を勉強する機会があったこと、以前に仕事で米国に行った際に余って放置していた約4000ドルが手元にあったことがきっかけです。ただ、考えてみると、私のように値動きの少ない堅実な国内株中心に投資してきた人間が買い始めたということは、すでに『買い』が一巡したということ(笑)。株価が下がるのも当然かもしれません」
*「米国株投資」アリかナシか(2)につづく