「正直不動産」原案者が教える悪徳業者のワル手口【2】売買に「心理学」を応用

─売買でも、不動産業者は煽るようですね。

夏原 都心の高級マンションはすぐに売れますが、内見で「このマンション内ではこの部屋以外、全部売れました」「早く決めましょう」などとも煽ります。物件の内見は絶対条件ですが、例えば上の住人や近所がうるさい場合、業者によってはその時間帯を避けますし、雨が降ると水はけが悪くなる物件では雨の日を避けて内見します。

─ウソはつかねどデメリットに触れさせたくないわけですね。

夏原 気に入った物件が売れても「他にいい物件はいくらでもある」と考えて、冷静さを失わないようにしないとダメです。また腕のある不動産業者は心理学も応用します。相場で5万円の腕時計を4万円でどうですか、と言われると「安い」と感じますが、これは初期値(アンカー)が判断に影響を与えるテクニックです。漫画にも描きましたが、購入物件のデメリットを語ってからメリットを語るトークをされると、客はメリットに引き寄せられます。「好条件の物件ですので、内見せずに契約するお客様が現れるかもしれません」と煽られ、即決で購入を決めるなどは冷静さを欠いています。

 野球にたとえると、不動産業者がプロ野球選手なら、購入者は野球の素人。購入者が情報弱者だと相手の思うツボにハマリます。

─内見以外の必須要素を教えてください。

夏原 相場価格や近隣の状況、用途地域、計画道路の有無、耐震基準、建物構造の種類、リフォームの必要性などは購入時の必要項目です。その他、疑問に思ったことはとことん聞くべき。売り上げを求める業者はごまかしたりはぐらかしたりしますが、懇切丁寧に答える業者ほど信頼できますし、良心的な業者だと「この物件は僕なら買いません」と理由を言ってくれます。100%満足する物件などこの世には存在しないので、自分がいちばん重視している項目を伝えること。良心的業者だとそこを重視して探してくれます。

 内見も単独ではなく一緒に住む人と行くべきです。家にいちばん長くいる奥さんが住みやすい家でなければだめですし、女性の視線は冷静です。また子供の目線も実は大事です。

─旦那が突っ走ってはいけない、と。

夏原 男性の場合、通勤時間が短い、あるいは駅の近くに寄りやすい居酒屋がある、なども購入要素としますが、それらは住居の本質ではありませんし、業者も営業しやすくなります。もう一つ、夫婦でのペアローンも危険な購入方法です。どちらかが仕事を失ったら毎月の支払いは大変なことになりますし、ドラマでも描かれた通り離婚の危険性も発生します。

 住宅ローンは人生最大の借金であり、不動産投資は借金投資です。物事の本質を見据えないと痛い目に遭うことをよく意識してください。

─正直不動産はドラマの中だけの世界のようだ。

夏原武:1959年生まれ。作家、ルポライター、漫画原作者。小学館漫画賞を受賞しテレビドラマ化・映画化された「クロサギ」「新クロサギ」の原案も担当。「任侠転世〜異世界のヤクザ姫〜」(サンデーGX・小学館)、「カモのネギには毒がある」(グランドジャンプ・集英社)連載中

*「週刊アサヒ芸能」6月2日号より

ライフ