「正直不動産」原案者が教える悪徳業者のワル手口【1】マンション投資には危険がいっぱい

 人気ドラマ「正直不動産」(NHK/毎週火曜日夜10時放送)。ウソをつけなくなった不動産営業マンを主人公に、業界の闇に切り込んだ作品として中高年のファンも多い。漫画の原案者である夏原武氏は不動産業界の表も裏も知り尽くした人物。そこで、不正直な「悪徳不動産」業者のワル手口を一挙公開してもらうと─。

─「正直不動産」のコミックスでも住居用のマンションを購入した客に2軒目の投資用マンションを勧める「悪徳不動産」業者が登場します。最近、この手の話が実に多い気がします。

夏原 本来、投資を勧める際に「絶対」や「確実」という言葉は使えないんですが、不動産ブローカーや、商談中に相手が録音していないと確認した不動産業者が語るケースがあります。客がマンションを購入する際の殺し文句ですが、本当なら「儲かるかもしれませんが損するかもしれません」と説明すべきです。なぜなら、この世に「絶対に儲かる投資」など存在しないからです。

─株式投資や競馬予想と同じですね。

夏原 「絶対に儲かる」なら他人に勧めず自分で投資をするはず。「他人が勧める儲け話には絶対に乗らない」のが基本です。不動産投資では「この地域ならすぐに埋まります」「上手にやれば年利10%になります」などのセリフも常套句ですが、不動産も含めて投資の鉄則とは「最悪の状況に耐えられるか」に尽きる。ある医師は物件を見もせず〝どんづまりマンション〟を3棟建てたのですが、空室が多すぎて自己破産寸前だと泣いていました。

 現在の日本の空室は20%に及んでおり、不動産投資では60%(10部屋のうち6部屋が埋まる)を想定の基準としておりますが、空室なしで「利回り15%です」などと煽る悪質な業者もいます。

─原作の漫画では長期の住宅ローン「フラット35」を利用して投資用マンションを購入したケースが紹介されていました。

夏原 フラット35は政府による持ち家促進の金融商品で「新耐震基準の住宅」など物件を重視したローンですが、80年代にアメリカで創設され15年ほど前に破綻したサブプライムローンと同じです。審査基準が緩く低年収でも借りやすいのがメリットですが、これを利用して他人を住まわせる=投資用とするのは融資契約違反。バレたら一括返還命令が下されます。漫画では相場より割高なマンションを購入したものの店子が入らず、見積もった賃料をもらえないままローンを払い続けましたが、相場価格を調べず、あるいは入居者が見つからない想定をせずに購入する人も少なくありません。業者は「これで儲からなかった人はいません」などと煽りますが、購入させて自分の利益にするための常套句ですし、バレたら「住居用だと思っていました」などと言い張ります。金融機関がブローカーにキックバックするケースもあります。

 不動産は投資対象ではなく、あくまで住居です。不動産知識がないのに投資などやってはダメです。ましてや投資用に借金をするなど負債が増えるだけ。キャッシングをして馬券を買うのと同じです。

夏原武:1959年生まれ。作家、ルポライター、漫画原作者。小学館漫画賞を受賞しテレビドラマ化・映画化された「クロサギ」「新クロサギ」の原案も担当。「任侠転世〜異世界のヤクザ姫〜」(サンデーGX・小学館)、「カモのネギには毒がある」(グランドジャンプ・集英社)連載中

*「週刊アサヒ芸能」6月2日号より。【2】につづく

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