テリー 36年の中でいろんな大スターにお会いしたと思うんですけど、さっきお話に出た勝新太郎さんは印象深いんですか。
井上 勝さんは一番思い出があるかもしれないですね。
テリー もうパンツは穿かないって言ってましたね。
井上 穿いてましたけどね。
テリー アハハハハハ。
井上 でも、勝さんの話ってね‥‥例えば勝さんって拳銃の件で捕まったことがあるんですよ。刑事ドラマをやるからって、東京湾に空き缶を浮かべて実弾を撃ってたんです。
テリー ムチャクチャだね(笑)。
井上 でもね、記者会見で「君たちは拳銃を撃ったことあるか」って聞くんですよ。だから「ない」って答えると「だろう? 俺もないんだよ。じゃあ、どうやって俺は拳銃を撃つシーンをリアルに演じられるんだ」って、そういう話を延々するわけですよ。そうすると僕らもだんだん「この人の言ってることは正しいんじゃないか」って思えてくるんです。それが勝新太郎の世界なんですけど。
テリー 人を魅了する力が頭抜けてますよね。
井上 だって「パンツを穿かない」のコカイン事件も、勝さんの理屈は「謎の紳士が中華航空機のトイレの前に現れて、俺に渡したからパンツの中に入れた」なんですよ。これをインタビューだけじゃなくて、東京地裁で裁判官相手にも言うんです。僕も地裁でいろんな裁判を傍聴しましたけど、勝さんだけですよ、あそこが舞台になるのは。
テリー 傍聴席じゃなくて客席なんだね。
井上 傍聴席にいる記者や一般の人のリアクションを必ず見るんですよ。で、笑いが生まれるとすごく喜ぶんです。僕はこの裁判をずっと傍聴していて、何回か裁判官が笑ったのを見てるから、それを勝さんに伝えたら「あれは俺の勝ちだよな」って(笑)。もう生きてる世界が全然違うんですよね。
テリー おもしろいなぁ(笑)。
井上 ハワイから戻ってきた時に、当時自宅が都内にあって、僕が「こちらが勝新太郎容疑者の自宅前です」ってリポートしながらスタジオとやり取りしてたんですね。
テリー それは生放送?
井上 生放送で。そしたらCMに入った途端に、後ろからパーンって叩かれて、何かと思ったら勝さんがスリッパを持って立ってるんですよ。で、「井上、容疑者って呼ぶのはやめろ。呼び捨てでいいから。勝新にしろよ」って言って去って行ったんです。こんな芸能人いないですもん。だけどね、おもしろかったし、優しかった。
テリー もうあんな人は出てこないですよね。
井上 出てこないですね。僕、六本木のそば屋さんで勝さんに会って、朝の4時ぐらいまで一緒にハシゴしたんですけど、ほんとに1000万円使い切りましたからね。
テリー ええっ!?
井上 しかも全部キャッシュですよ。銀座のクラブでもついたホステスさん全員に1万円札10枚をチップで胸元に入れるんです。そうすると他のテーブルにいたホステスさんもみんな来ちゃう。座っただけで10万円ですから。1000万円だってなくなりますよ。
テリー 普段から1000万円持ち歩いてるの?
井上 いや、途中で持って来させたんです。全然知らない人が「勝さんですよね、握手してください」って来ても、「おう、お前もちょっと飲んで行けよ」って次の店に連れて行くから、最初2人だったのが、最後20人ぐらいの団体ですよ。
テリー 最高ですね。
井上 それも自分のじゃなくて、タニマチのお金だから。
テリー 自分のじゃないんだ(笑)。
井上 最後は借金だったんですけど、中村玉緒さんが全部返したって話です。でも、あんな豪快で楽しい人はいないですよね。
*テリー伊藤対談【4】につづく