もしかしたら高すぎる買い物になるかもしれない。さらには頓挫もあるか。イーロン・マスクによるツイッターの買収だ。
4月25日、ツイッター経営陣はマスクの1株54.20ドルでの買収提案に合意したことを公表。これで予定通りコトが運べば、今年中にマスクが100%の個人株主になって、会社は非公開化されることになる。買収金額は日本円で約5兆6000億円だ。
「発表があった25日、余波は様々なところに及びました。まずは当のツイッター株が5.7%上昇して51.70ドルに。それでもまだマスクが提案した額よりは安く、昨年には70ドル台だったので、いかにこのところの同社への評価が低かったかが分かります。同じく上げたのが柴犬をモチーフにしていることで知られる仮想通貨のドージコインで、こちらは一時30%も上昇しました。というのも、マスクは常々ドージコインへの支持を公言していて、テスラの決済でドージコインが導入される可能性さえ云々されているからです」(経済ジャーナリスト)
一方で、値を下げたのがマスクの本家のテスラ株だ。最終的にはわずか0.7%の下げで終わったが、テスラのステークホルダーからしてみれば、マスクが異様にツイッターに入れあげているのを見れば不安になるというものだ。マスクは金融機関などからの調達で6兆円の買収資金のメドがついたとしているが、となれば不測の事態にはもしやマスクが保有するテスラの自社株が売られるのではないかと推測するのも自然だろう。
大型M&Aなので当然のこと、投資銀行はただただ儲かる。
「ツイッター側のアドバイザーはゴールドマン・サックスにJPモルガンなどで、マスクのアドバイザーはモルガン・スタンレーを筆頭に、バンク・オブ・アメリカ、バークレイズがついています。通常、M&Aの助言では1〜3%のフィーが落ちるので、分母が巨大なだけにフィーだけでもバカでかい。加えて、リードアドバイザーのモルスタは6兆円の買収資金の調達を手伝っています」(同)
それにしてもツイッターの取締役会は、なんともあっけなく白旗を上げたものだ。企業防衛策にマスクの保有株が希薄化して影響力が薄れるポイズンピル(毒薬条項)を施したもののマスクの資金力が上回り、加えて、マスクに対抗してくれるホワイトナイトが現れなかったからだが、ただ一方で、ツイッターの社内事情を知る経営陣ならではの深謀遠慮もあったのかもしれない。
「2月にはFacebookなどを運営するメタ・プラットフォームズで広告収入の落ち込みが分かって大きく株価を下げ、1日にして時価総額で29兆円を失うということがありました。また、先日もネットフリックスの会員が減ったとの報道を受け、やはり1日で時価総額で7兆円が消失しています。こうした背景には、テック企業が広告や一般のユーザーから収入を得る仕組みで大きな曲がり角を迎えたのではないかとの見方があります。それはツイッター社も同じで、会社をバイアウトするならまだ高値で売れる今のうち、といった考えが経営陣にあるのかもしれません」(同)
と、慌ただしくコトが動いていると今度はマスクに大きな暗雲が。翌26日になると今度はテスラが本格的に売られて12.2%も急落、1日にして時価総額で1260億ドル(約16兆円)を失うことに。テスラの株主が感じていた不安に投機筋の動きも重なって大きく売られたのだ。マスクの買収資金調達では、自身が保有するテスラ株を担保にしているから、このままテスラ株が大きく下げたままだと、追証(追加証拠金)を入れる必要があって、いくらマスクと言えども火の車となりかねない。
仮にマスクが撤退するとすれば、10億ドル(約1280億円)の違約金を支払うことになっているので、もしかしたらマスクは行くも地獄戻るも地獄といった茨の道に踏み込んでしまったのかもしれない。
(猫間滋)