「我々の核戦力の基本的使命は戦争抑止だが、我が国が決して望まない状況となれば、核は戦争抑止という使命だけに縛られるわけにはいかない」
25日深夜に北朝鮮の平壌で行われた軍事パレードの映像が翌26日、朝鮮中央テレビで放送され、白い軍服姿で現れた金正恩総書記は、核兵器の使用について、こう強い口調で宣言した。
「北朝鮮の正規軍による軍事パレードは昨年1月以来ですが、今年は朝鮮人民革命軍の創建90年の節目にあたり、また金正恩政権の10周年でもある。そのため、普段はスーツ姿の金総書記は、公の場では初めてとされる白い “元帥服”で登場。戦闘機による空中ショーなど、ハリウッド映画を彷彿とさせるド派手な演出に加え、終盤には先月末に発射したとされる大陸間弾道ミサイル『火星17』や、新型の潜水艦発射ミサイルとみられる兵器を次々が登場、このパレードにかける並々ならぬ意気込みが表れていました。韓国メディアもこぞって『歴代最大規模のパレード』と伝えています」(北朝鮮に詳しいジャーナリスト)
先に示したように、金総書記はおよそ17分に及ぶ演説を行い、「国の利益が侵奪されるなら核武力を決行する」と、体制維持のためなら核の使用も辞さない考えを表明。
「この発言は、5月に誕生する韓国の尹錫悦次期政権、さらにはその先にいる米国に向けられていることは言うまでもありません。そして金正恩政権が10年を迎え、これまで作ってきた最新兵器システムを一挙公開することで北朝鮮の軍事力をアピールし、金正恩体制の強固さを内外に示した。このパレードには、そんなショーケース的な意味合いも強かったようです」(同)
とはいえ、深夜の時間帯になぜ大規模パレードを開催する必要があるのだろうか。その点を、前出のジャーナリストは次のように解説する。
「北朝鮮が初めて深夜に軍事パレードを行ったのは2020年のことですが、北朝鮮の人々は古くから主体思想の宣伝材料として芸術を重要視してきました。なので、一つにはインパクトある演出で『メディア映え』すれば国際社会に対し注目を集められる、という思惑があったからでしょう。実際、今回の軍事パレードではLEDイルミネーションを使用するなど、夜間に映える演出がありました。また、昼間と違い夜なら、多少の失敗があったとしても、アラが隠せるというメリットもある。加えて、深夜に軍隊を整列し行進させれば、精神的、肉体的に負担を強いられ、逆にこれが人民の忠誠心を鼓舞することになる。そうしたことが、金総書記が深夜の軍事パレードにこだわった理由だと考えられます」(同)
ちなみに、朝鮮中央テレビは2017年ごろからハイビジョンに対応しており、今回のパレード映像も高画質で世界中に配信されたという。とはいえ、「映え」を狙いながら「核は戦争抑止」と訴える北朝鮮の戦略に改めてしたたかさを感じるばかりだ。
(灯倫太郎)