阪神が苦しいスタートとなった。他球団と戦力を比較しても弱いチームではないのに、落とし穴にハマッた感じ。開幕戦としてはプロ野球ワーストタイの7点差の逆転負けを食らったのが痛かった。開幕カードの3タテはきつすぎる。2カード目の広島との初戦も、新守護神のケラーで逃げ切れずに逆転サヨナラ負け。どんよりと重苦しいムードが漂っている。
矢野監督もファンも、メジャーに移籍したスアレスの存在の大きさを痛感させられたはず。去年まではわずか1点リードでも最終回は安心して見ていられた。相手チームもスアレスが出てきたら半分、あきらめる感じやった。62試合に投げて1勝1敗、42セーブ、防御率1.16の圧巻の成績。メジャーから声が掛かって当然やった。
そのスアレスの代わりとして、高い金を出して獲得したのがケラー。当然、やってもらわなアカン選手。矢野監督が見切り発車のような形で開幕から抑えで起用したのは責められない。だけど、開幕戦で1人目の打者の山田に得意のカーブを完璧に捉えられるホームラン。これは本人も首脳陣もショックやったと思う。
ケラーはコントロールが乱れる感じはないけど、空振りを取れる球がない。ストレートは150キロ前後出ているが、簡単にファウルで粘られる。縦割れのカーブもキレがない。2度目の登板となった開幕4戦目の広島戦でも簡単に2ストライクを取りながら、アウトを取れなかった。一死二塁から、伏兵の上本には12球も粘られて四球を与えてしまった。3球勝負で三振を取れていたスアレスと比べたらかわいそうやけど、抑え投手がこんなに粘られるときつい。フォークのような落ちる球もないし、もう少し状態が上がらないと9回は任せられない。
とはいえ、コロナ禍で来日が遅れて、慣れない環境の中での登板やった。矢野監督はたった2試合で配置転換を明言したけど、ちょっと気の毒に思う。新しい抑え投手は経験の浅い湯浅に任せるらしいが、悪い時に動くとドツボにハマることがあるから心配やね。
投手陣だけでなく、佐藤輝を4番に据えた打線もコロコロ変えないほうがいいと思う。開幕戦の途中から28イニング無得点に苦しんだものの、チャンスは作れていた。あと1本が出るかどうかだけ。そんなに悪い打線じゃない。佐藤輝は心配しなくてもそのうち打つようになる。春先は投手が元気やから、もともと打者は分が悪い。去年の後半には不調時にスタメンを外され、余計に調子がガタガタになった。その二の舞だけは避けてほしい。コツンと当てただけでもホームランにするようなパワーがあるんやし、相手からしたら怖い打者。調子うんぬんでなく、4番で固定して使い続けたほうがいい。
野球は一つのアウト、一つの勝利で流れがガラリと変わる。阪神とは対照的に巨人はドラフト1位の大勢を抑えに起用して、開幕から連続でセーブを記録した。でも、大勢も初戦でやられていたら、どうなっていたかわからん。ビエイラがオープン戦から不調で、イチかバチかでルーキーを据えたのがうまく転がっただけ。
矢野阪神も、リリーフ陣を整備すればまだまだ巻き返せる。今年の延長12回制では、ブルペンの弱さが致命傷となる。去年以上に監督の能力が大事になるのは間違いない。
福本豊（ふくもと・ゆたか）：1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。
