ウクライナへの侵攻により、欧米諸国から経済制裁などを受けているロシアに対し、中国のネット上では、ロシア製品を買って同国を応援しようという動きが活発化している。
中国の通販大手の京東集団(JDドットコム)のサイト内にある、ロシア大使館公認のショップ「ロシア国家館」では、チョコレートや飲料水、ウォッカなど、多くの食料品が爆売れし、売り切れる商品が続出。それを受け、同サイトの動画で駐中国ロシア商工会議所の所長が「親愛なる中国の友人たちよ、この困難な時にロシアを支援してくれてありがとう」とビデオメッセージを送ると、翌日には同サイトのフォロワー数が10万人から100万人と10倍に急増。その後も中国のネット通販ではロシア製品を買い支える動きが加速しているという。
「中国は過去にも、西側諸国から制裁を受けていた北朝鮮やイランとの貿易を継続し、経済的支えになってきました。その背景には、欧米の経済制裁により買い手がつかなくなった原油などを、安値で買い入れられるというメリットがありました。実際、中国が今年1月にイランから購入した原油は日量70万バレルを超え、過去最高といわれています。当然、行き場を失ったロシア産の原油や天然ガスも買い叩かれる可能性は高く、中ロの貿易総額が拡大することは間違いないでしょう」(国際問題に詳しいジャーナリスト)
そんな中、中国の王毅外相が記者会見で「国際情勢がいかに厳しくなろうとも、ロシアとの協力を絶え間なく進める」と強調しつつ、返す刀で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、「必要な時に、国際社会とともに仲裁を行う用意がある」と述べたのは、全国人民代表大会(全人代)が行われた7日のことだ。
何があってもロシアを支持するとしつつ、「国際社会とともに仲裁」という言葉が中国外相の口から飛び出したことには矛盾を感じるが、前出のジャーナリストは「それがロシアに対する中国の誤算の表れなのでは」と指摘して、こう続ける。
「中国とロシアは米国中心の国際秩序に対抗することで利害が一致しています。だからこそ、欧米の首脳が外交ボイコットする中、プーチン大統領は北京五輪の開会式に出席。習近平主席との蜜月を内外にアピールしました。その後、ウクライナへの侵攻が始まったわけですが、中国としてはこの戦争はあくまでも短期で、小規模だと踏んでいた。ところが戦火が拡大し、民間人の死者が増えるにつれ、国際社会によるロシアへの制裁がかつてない規模に達してしまった。そんな状況下で中国がロシアとの取引を拡大させれば、あるいは中国も、欧米との取引から締め出されかねません。そうなると当然、中国経済にも大打撃です。中国は台湾問題を抱えているためウクライナ問題に手を出しにくいという見方もありますが、台湾はあくまで内政問題であり、ウクライナ戦争とは根本的に異なるとの姿勢です。ですから、情勢を見ながら、自国に最もメリットのある形で動くタイミングを見極めているのだと思います」(同)
つまり、今はまだ「必要な」時期ではないが、「必要な」時期が来たら急転直下、仲裁に動き出す可能性も否定できないというわけだ。先の見えないロシアによるウクライナ侵攻。プーチンの暴走を最も冷静に注視しているのは、案外、中国なのかもしれない。
(灯倫太郎)