そんな闇中古車ショップは、さすがに一見の日本人がいきなり入店して、すぐに売買交渉するというわけにはいかないようだ。杜撰な仕事で盗難車を売っているといっても、そこはさすがに警戒の目を光らせているようだった。
店主のミゲルを知る地元関係者から紹介を受けたという男性に、記者は同行させてもらった。
何度か電話でやり取りして約束の場所で待っていると、ミゲルが現れた。
「こっちだよ、こっち」
挨拶もそこそこに、指示されるまま少し歩く。ブラジル料理店などが立ち並ぶ大通りから脇に入った道を進むと、ミゲルが立ち止まった。
忽然と目の前に広がったのは、砂利が敷き詰められた空き地のようなだだっ広い場所に、所狭しと40~50台のナンバーが外された乗用車が並んでいる光景だ。BMW、フェアレディZ、レクサス、アクア、プリウス、アウディ、ソアラ、クラウン‥‥。冒頭のやり取りに繫がるが、確かに何でも揃っている。
とはいえ、中古車ショップの看板などどこにも掲げられていない。しかし、1台1台動かさなければ奥の車は出せないはずで、単なる駐車場でないのは明らかである。
屋根もない青空が広がる空き地は横に畑もある牧歌的な景色だが、ただ置き場所として利用しているだけのようで、管理体制はやはり杜撰なようだ。出入り自由な環境であるためか、売り物のウインドウが破壊されることもあったという。
大きなコンテナを備えたトラックが目について、同行者が値段を聞くと、ミゲルはこう答えた。
「35万だね。普通、70万円はするよ。半額だよ」
なるほど、噂通りである。
─ほかの車もほとんど半額?
「全部じゃないよ」
─車種関係なしに何でもある?
「あるある」
─人気のレクサスも?
「レクサス570? 350万円ぐらいだね」
新車で1200万円、中古でも700~800万円が相場の車種である。どう考えても、仕入れ先が怪しい。
─ずっとここで1人でやってる?
「違う所もあるよ。倉庫もある。本社は他の県にあって、レクサスとかスープラとか解体してアラブなんかに出してるよ」
部品に解体して組み立て直し、人気の日本車を遠い異国に運び込んで、もはや盗難車かどうかなどわからない形で売りさばくのは常套手段だ。外国人犯罪者相手に廉価な商売をするばかりではない部門もあるということか。〝青空ショップ〟からは想像もつかないほど大掛かりな組織なのかもしれない。
となれば、そもそも売り物の調達方法も気になる。
「ルートはいろいろあるようだけど、同胞のブラジル人仲間なんかが遠征して盗んでくるようだ。さすがに、近所でやるわけにはいかないからな。関東から静岡、そればかりか、大阪まで複数人で行って、1台ずつ運転して帰ってくるパターンもある。ハイブリッド車なんかは夜中にエンジンをかけても静かだから、意外と簡単に盗めるってな。トルコ人が持ち込んだ車を勝手に売って、踏み倒したことで拳銃を撃ち込まれた騒動もあったそうだから、よそから買うことはあっても、安く売って利益を出すには固定の仲間とセットだろうよ」(X氏)
日本人が知らないところで、闇のカーニバルが日常的に繰り広げられているようなのだ。
*「週刊アサヒ芸能」1月20日号より。(3)につづく