今年の日本シリーズは面白い対決となった。オリックス、ヤクルトともに昨季の最下位からのリーグ優勝で、チームバランスもよく似ている。クライマックスシリーズもファイナルステージを2連勝のあとの引き分けで、全く同じ形で突破した。どっちが勝つか、ほんまに予想が難しい。しぶとさはヤクルトが上かもしれんけど、オリックスには山本由伸というスーパーエースがいる。どちらのチームがシリーズの流れを引き寄せられるかやな。
オリックスは前身の阪急時代も含めて、ヤクルトとの日本シリーズは今回が3度目。直近がイチローが野村監督のインコース攻めに苦しめられた1995年。その前が僕が現役時代の1978年で、両方とも負けている。忘れたくても忘れられないのが78年の第7戦。大杉さんの左翼ポール際のホームランは、上田利治監督の1時間19分の抗議が、今でも語り草になっている。
6回一死から2-0となる一発。あれは間違いなくファウルやった。ポール付近のお客さんもみんなファウルと証言していた。今みたいにリクエスト制度があったら、すんなりファウルの判定に変わって何事もなく試合が進んでいたはず。でも、当時は審判の判定は絶対。いくら抗議しても覆らないのはわかっていた。その間、ベンチで待機させられていた僕らの本音は、気持ちを切り替えて、早く試合を再開したかった。ウエさんも引くに引けず意地になっていたけど、結局、長すぎる抗議のために先発の足立さんは続投できず、当時ルーキーの松本が代わりばなでマニエルにホームランを打たれた。
当時の阪急は3年連続日本一になっていて、ヤクルトとの日本シリーズも絶対に勝てると思っていた。油断はなかったけど、勝負事はやってみないとわからない。特にホームランというのは試合の局面を打開する時がある。そういう意味でも、オリックスのカギを握るのは、ラオウこと杉本になると思う。今年はプロ6年目で覚醒して本塁打王を獲得。クライマックスシリーズでも、ロッテとの2戦目で決勝2ランを放った。もちろん日本シリーズでも期待はしているけど、そう簡単ではないと思う。
何せ、相手は野村監督を師匠に持つ高津監督やから。95年の日本シリーズでイチローを徹底マークで封じたように、杉本対策を入念に練ってくると思う。厳しいインコース攻めにあえば、杉本も苦しくなるかもしれん。去年までのような大振りはなくなり、変化球を打つのもうまくなった。ヤクルトからすると、気持ちよく踏み込ませないために、いかに速い球を意識させられるか。
一方で、高津監督がノムさんの弟子なら、中嶋監督はウエさんの弟子。天国で教え子に78年のリベンジを期待していると思う。僕が引退翌年の89年に打撃コーチに就任して、ウエさんに指定強化選手として託されたのが中嶋と高橋智の2人やった。「一人前にしてくれ」と言われて、バットを振り込ませた。中嶋は体力もあったけど、へこたれずに頑張りぬいた。
闘将と知将の弟子の対決となるだけに、ベンチワークも見所となる。昨年も一昨年も、ソフトバンクが巨人に4勝0敗のストレート勝ちであっさり終了した。今年は野球ファンの一人として、第7戦までもつれるような白熱したシリーズを見せてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。