そもそも安倍氏は早い段階から菅総理再選への支持を表明していた。あえて岸田氏がその懐に飛び込んだのは、入り込む余地があると判断したからだろう。
「安倍氏、麻生氏に甘利明党税調会長(72)を加えた『3A』と呼ばれる3人は以前から二階氏の党運営に不満を抱き、続投阻止のために連携を強めていました。そんな中、『伏兵』の岸田氏が二階氏に半ば公然と退任を迫ったことで、流れが一気に変わったのです」(政治部記者)
安倍氏が次期トップとみられる党内最大派閥の細田派(96人)、麻生氏が率いる第2派閥の麻生派(53人)が味方になれば、岸田氏にとっても渡りに船に違いない。
その安倍氏といえば、昨年9月に総理大臣を辞任する理由になった持病の潰瘍性大腸炎について、6月に出演したラジオ番組で、
「今まで飲んでいる薬は続けるが、(医師に)免疫抑制剤はもう卒業してもいいのではないかと言われ、ひと安心している」
と、回復をアピール。実際、コロナ第2波に苦しむ国民をよそに、菅総理に全てを押しつけた時の弱々しさは微塵も感じさせず、衆院選に向けて全国を巡回。派閥の候補者の元に顔を出し、殺到する講演や対談オファーを引き受け、次々と議連の最高顧問に就任しては存在感を強めていた。
「安倍氏が(総理の)再々登板に意欲的なのは周知の事実ですが、今は政権より党での実権掌握に力を入れ、キングメーカーとして地位を確立するのが最優先。それだけに、影響力のある二階氏は目の上のたんこぶなのです」(自民党関係者)
秋の衆院選で党内の公認争いが激化している中、調整が必要とされる選挙区で、ことごとく二階派と他派閥の候補者が競合。安倍氏の細田派も群馬1区や新潟2区でぶつかっていた。
「派閥の長としては譲るわけにいかず、調整が難航するのは毎度のことですが、特に二階氏は難攻不落の壁。6月末に安倍氏が二階氏を誘って会食しましたが、意見は聞いても、かぶった選挙区でどちらを公認にするか、結論は出なかった」(自民党関係者)
選挙区の候補者選びで「新旧」キングメーカーの抗争が勃発する一方、安倍氏は組織強化に一段と力を入れている。
5月末に発売された月刊誌「Hanada」(飛鳥新社)のインタビューで、「ポスト菅」に岸田氏、茂木敏充外相(65)、加藤勝信官房長官(65)、下村博文政調会長(67)の4人を列挙。翌月にも同誌で、萩生田光一文部科学相(58)、西村康稔経済再生担当相(58)、松野博一元文科相(58)の3人を追加した。
「人数が多くて節操がないようにも思えますが、安倍氏の口から名前が出れば、お墨付きを貰ったようなもの。党内での格が上がり、次こそ名前を挙げてほしい議員は安倍氏に忠誠を誓うのです」(政治部記者)
メディアを利用した人心掌握術で着々と統制していきながら、衆院選に向けて水面下で「隠し球」に秋波を送っていたのだ。
*「週刊アサヒ芸能」9月16日号より。(3)につづく