大赤字、しかも一部不通の「只見線」が廃止されないワケ

 新潟県・福島県の山深い場所を結び、全国でも有数の秘境路線としても知られているJR只見線。2011年7月の新潟・福島豪雨で橋梁や路盤が複数個所で流失。10年経った今でも福島県側の会津川口駅~只見駅間の27.6キロは不通で代行バスが運行されている。

 22年度中には、全線完全復旧の見通しだが、とはいえ只見線の沿線人口は2県9自治体でわずか20万人。地域住民の大半の移動手段はマイカーで、高校生などが通学で利用するものの通勤客は非常に少ない。

 只見線は不通になる前からJR東日本管内でも有数の赤字路線だったが、にもかかわらずなぜ廃止を免れたのか。もちろん、そういう話が出なかったわけではない。

「JR側は復旧費用が85億円との試算を出しており、当初から自社単独での復旧は困難との姿勢を見せていましたが、福島県と会津地方の市町村が3分の2を負担。さらに復旧後も自治体側が線路など設備の保線費用を受け持つことで17年に合意しています」

 そう説明するのは鉄道ジャーナリスト。つまり、列車の運行はJR東日本、線路や沿線設備の管理・メンテナンスは自治体がそれぞれ担当するというもの。これは上下分離方式と呼ばれ、海外の鉄道業界では一般的な仕組み。鉄道会社側の負担を削減する利点があり国内でも地方の私鉄や第三セクターなどで多く導入されている。

「もともとJR東日本は業績好調だったのでこのような形で話がまとまりましたが、これは同社が莫大な利益を出し続けていたときのこと。もしコロナ禍で巨額の赤字を背負った現在だったら復旧費用を出すのは一部であっても大きな負担。不通区間はそのまま廃止になっていた可能性もあります」(同)

 タイミングにも救われた感はあるが、これは全国に数多くの赤字路線を抱えるJR側にとっても悪い話ではない。自治体との上下分離方式という選択肢を提示することができたのは業界にとっても大きいはずだ。

(高島昌俊)

ライフ