ひき逃げ被害、行方不明も…くたくた「警備員」のブラックすぎる労働実態

 最近、全国各地で警備員関連のニュースが頻繁に報じられている。いずれも警備員にとっては気の毒と言わざるをえない事件ばかりだ。

 5月30日、静岡市の高速道路で警備員が中型トラックにひき逃げされて大けが

 6月4日、鎌倉市の商業施設で警備員がコインロッカーから乳児の遺体を発見

 6月5日、北海道十勝で停電の復旧作業に向かった警備員が行方不明に

 ひとくちに警備業といっても様々あり、1号警備、2号警備、3号警備、4号警備という4つの種別に分かれる。それぞれについて簡単に説明すると、まず1号警備とは「施設警備」のことで、オフィスビルや商業施設、学校、病院、宿泊施設などにいる警備員のこと。2号警備とは「交通警備・雑踏警備」を指し、工事現場やイベント会場などで自動車・歩行者を誘導する。3号警備は「貴重品輸送警備」とも呼ばれ、現金や美術品の輸送などを行う。4号警備の「身辺警備」は、平たくいえばボディガードのことだ。

 今回取材に応じてくれたのは、都内の大規模オフィスビルで施設警備員(正社員)として働く山内正一さん(仮名、53歳)。これまで3社の警備会社を渡り歩き、数十カ所の現場(施設)を警備してきたベテランの彼は、業界の闇をこう告白する。

「1号警備は、施設内での勤務なため天候の影響を受けず、モニター監視や出入管理など座り仕事のイメージがあるためか、警備業の中でも比較的楽な仕事だと思われがちです。もちろん中にはそういう現場もあるでしょうが、多くのケースでは巡回や立哨など立ち仕事もあるため体力を必要とされますし、不審者や火災などへの警戒を常に行う必要もあります。年収は残業代含めて300万円にすら届かず、日勤、夜勤と勤務時間も変則的で、24時間の長時間労働も当たり前。仮眠は4時間とれますが、仮眠室には悪臭が立ち込め、共用布団は何年も洗っていない有り様。しかも、仮眠中に警報器が爆音で発報したり、電話が鳴ったりして叩き起こされることも。規則によって行動も厳しく管理されており、もし鍵を紛失したり破損などすれば大問題になるし、火災や事件が起きて被害が出れば警備員への批判も避けられません。なかなか努力が報われない仕事です」

 人間関係のキツさもあるという。

「現場によってはいじめやパワハラが行われています。実際、今いる現場の先輩はこちらが挨拶をしても無視するし、上司に私の悪口をあることないこと吹き込んでいるようです。この先輩にいびられたせいで今まで十数人が辞めていきました。また、クライアント、施設の入居者や利用者への対応で苦労することもあります。中には、警備という職業をあからさまに見下している人もおり、いわれのないクレームや暴言を吐かれることも少なくありません。これまで経験してきた3社全てで似たような苦い経験をしました」

 その一方で、他業界への転職も簡単ではないようだ。

「コロナの影響でテレワークや外出自粛が進み、誰もいなくなった施設に警備員を常駐させる必要もないため、人員削減を行なっている所もあります。さらに、今や中小規模の施設は経費削減のため警備員を置かず、機械警備(センサーによって不審者侵入や火災を防ぐ警備方法)に切り替える所も多い。今後、警備員の需要はますます低下していくでしょう。そんな中で他業界へ転職しようにも、警備職で培ったスキルや経験は何の役にも立たないとみなされ、なかなか就職先が見つからないのが現実。結局、転職も叶わぬまま時間だけが経ち、沈みゆく業界に必死にぶら下がって生きていく。運良く警備の仕事を続けられたとしても、不規則な生活リズムが続いて不眠症や生活習慣病、腰痛などを患う人も珍しくありません」

 市場の原理として、警備員を必要としている人がいるから警備業界は成り立っている。人々の安心や施設の安全を支えてくれる彼らに、尊敬と感謝の念しかない。

(橋爪けいすけ)

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