バブル崩壊後に廃止危機に直面。北の大地で最大1トンの鉄ソリを引く「ばんえい競馬」が奇跡の完全復活を遂げた。一度、馬券を購入したらハマってしまうファンが続出。空前のブームに乗り遅れないためにも、新シーズン開幕直前「はじめてガイド」で、世界で唯一のレースを学んでみよう!
20年度の馬券発売額が前年度比55.6%増の483億5278万円となり、過去最高額を記録したのは、北海道帯広市が主催する「ばんえい競馬(ばんえい十勝)」だ。
競馬といってもサラブレッドではなく、体重900キロから1200キロの「ばん馬」による争い。ムキムキに鍛え上げられた体高、胸囲、管かん囲いもサラブレッドを大きく上回る「ばん馬」が鉄ソリを引く、世界で唯一のレースである。
そもそも北海道開拓文化の象徴として1953年から帯広、旭川、岩見沢、北見の4市で始まった。しかし、バブル崩壊が響き、06年度を最後に、帯広以外は全て撤退。以来、現在まで帯広市の単独開催で行われているが、11年度は売り上げが103億円まで落ち込み、廃止の危機を迎えた。
そのどん底時代、ふるさと納税制度を活用したばんえい振興を呼びかけるなど、応援活動を続けたのが競馬評論家の須田鷹雄氏だ。まずはV字回復の要因についてこう語る。
「やっぱりインターネット投票による馬券の販売が普及したのが大きかったですね。1回購入してもらえれば、それなりに定着するようになり、コロナ禍による巣ごもり需要を背景に一気に売り上げが伸びました。また、これまでのばんえい競馬は、1トンの重量を引く『ばんえい記念』(BG1、3月開催)を見てすごいと思ってもらえても、1年後の開催までには忘れられてしまう。そうした課題を改善するため、特に昨年は、他の競馬を買っている人に、ばんえい競馬も買ってもらえる取り組みを行ったのも正しかったと思います」(須田氏、以下同)
YouTubeで馬券を予想しながらレースを楽しむ番組「ゆるゆるばん馬」(楽天競馬)の生配信を行ったり、購入者が少ない関東や関西圏で、スポーツ紙に馬柱の掲載を増やすなど、ファン獲得作戦が功を奏したようだ。
令和3年度の開幕は4月23日。空前のブーム到来の波に今から乗っても全然遅くない!
ということで、まずはギャンブル的な魅力を知りたいところだ。中央競馬ファンは「地方競馬は堅い」と敬遠しがちだが、ばんえい競馬は人気馬同士の順当な決着ばかりとは限らない。過去最高配当は3連単で284万円(19年4月)。大波乱も起きるのだ。
「出走頭数が最大で10頭しかいないので100万クラスはなかなか出ませんが、けっこう配当がつくことが多いんです。1日12レース組まれていて、うち9レースが3連単で万馬券という日も珍しくありません。クラス分けが細かいため、同じレースで走っている馬同士の力量差が本質的にない。そのため、絶対この馬で間違いない、という軸があまりないんです」
ナイター開催の高知競馬では、勝てない馬同士が最終レースで競う「一発逆転ファイナルレース」が荒れると評判だが、ばんえい競馬も基本的に土・日・月のナイターで開催される。
「高知のファイナル同様、中央競馬で負けた分をナイターで取り戻せるチャンスがあるのも、ばんえい競馬の魅力のひとつです」
「荒れるばんえい」には、競馬ファンをくすぐる妙味が十分あるようだ。
■ばんえい競馬の基礎知識
距離は直線200m:体重1トン級の「ばん馬」が直線200mのセパレートコースを480キロ~1トンの鉄ソリを引いて戦う。最大10頭でレースによって負担重量が異なる
2つの障害:高さ1mの第1障害、高さ1.6mの第2障害の山が2つある。第2障害をいかにスムーズに越えるかが勝負の分かれ目
馬場状態は水分量で表示:水分量がパーセンテージ(0.0~9.9)で表示される。雨や雪で湿った状態が「軽馬場」(ソリが滑りやすくなりスピード型が有利)、乾いた状態を「重馬場」(ソリが滑りにくくなりパワー型が有利)と言う。サラブレッド競馬とは用語の意味が逆
騎手の戦略:一気に引ききれないので、何度か休んで効率的に進む。第1障害から第2障害の間で休むことを「刻む」と言う。特に第2障害に挑む前は息を整え、仕掛けのタイミングが騎手の腕の見せどころ
馬の脚質:第2障害を下りてからは騎手の意思で止めてはいけない。逃げて押しきる馬もいれば、第2障害を下りてからの追い込みが得意な馬もいる
ゴールはソリの後端:サラブレッド競馬のように馬の鼻先ではなく、ソリの後端が通過すればゴールとなる
開催日程:原則として土・日・月のナイター開催。年末年始や1~3月は一部変則開催やデイ、薄暮開催もある
馬券の種類:単勝、複勝、枠複、馬複、馬単、ワイド、3連複、3連単の8種類。帯広競馬場、場外発売所、インターネット(楽天競馬、オッズパーク、SPAT4)、電話で購入可能