今年もプロ野球が開幕した。見所たっぷりのシーズン。僕の最大の注目選手は阪神のドラフト1位ルーキーの佐藤輝明。オープン戦ではドラフト制後の新人最多となる6本塁打を放った。立ち居振る舞いは、何年もプロで飯を食べている選手のように堂々としている。こんな新人は今まで見たことがない。球場に見に行きたいと思う選手やね。まだ入場制限があるためスタンドが満員になることはないけど、ほんまにお客さんを呼べる選手やと思う。
佐藤輝の打撃は上体のパワーに頼ったものでなく、腰の回転で打っているという感じ。だから反対方向の左翼にも大きいのを打てる。下半身もしっかり使っているから、ボールの見極めも悪くない。近大時代に打率3割を下回っているのは不思議やけど、ごくまれに「コントロールがいいから、2軍より1軍の投手のほうが打ちやすい」という選手がいる。故障なく1軍で試合に出続ければ20本塁打は堅いし、今は試合数が多いから、清原の持つ新人最多記録の31本塁打も狙える。
阪神にとっては待望の生え抜き野手のスーパースター誕生となりそう。大山も昨年は巨人・岡本とホームラン王争いをするまでに成長したけど、まだ「大山の打撃を見たい」と阪神以外のファンにも思わせる存在にはなっていない。性格的にもちょっとおとなしい。
スーパースターになるには、打つ、投げる、だけでないプラスαが必要。例えば、人並み外れたものを持っていること。柳田の日本人離れした飛距離や、大谷の160キロ超えのストレート。周東の足だってお客さんを呼べる。佐藤輝の場合も、あの飛距離は魅力たっぷり。「どうやったらあんなに飛ばせるのか」と、夢があるホームランを打てる。
常にファンを意識した言動ができることも大切。ファンは優等生よりも、スケールの大きな選手を望んでいる。阪神の選手はマスコミに過剰に取り上げられるからか、発言に気を遣いすぎる優等生タイプが多い。目標を聞かれて「数字の目標はありません」、お立ち台のヒーローインタビューでは「チームの勝利に貢献できてよかったです」。こんな当たり障りのない回答だけでは面白くない。
佐藤輝はマスコミ対応も、スーパースター候補として合格点を与えられる。入団前から「40本、50本と普通に打てる選手になりたい」と堂々と言ってのけたけど、聞いているほうも自然と耳に入ってくる。無理している感じがしないし、自信過剰とかテングになっているとも思わない。持って生まれた華があるからやろな。開幕してからも自分の素直な気持ちをしゃべったらいい。それと、マスコミを大事にすること。新聞やテレビで取り上げてくれてこそ、スーパースターになれる。何度も同じ質問をされることがあるかもしれんけど、それも仕事と思って対応してほしい。
もちろんオープン戦でこれだけ打ったから、どの球団もマークは厳しくなる。オープン戦と本番は配球が全く違う。清原もそうだったように、インコースを厳しく攻められるし、緩急もつけてくる。でも、どんな打者でも難しいコースは完璧には打てない。ファウルで逃げて、甘い球を仕留めていけばいい。プロの壁をどうやってぶち破っていくか。選手としての最終的な到達点がどこまでいくのか。ほんまに楽しみな選手が出てきた。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。