今も余波が収まらないピエール瀧被告の薬物逮捕騒動だが、1993年、その瀧被告と同じ薬物の密輸に絡んでいたとして逮捕され世間を仰天とさせたのが、角川春樹氏だった。
春樹氏は1942年、角川書店の創業者・源義氏の長男として富山県で生まれ、源義氏が理事長を務めていた國學院大學に入学している。そう聞くと親の権力に頼るドラ息子のように思われるかもしれないが、実際は早稲田大学に合格していたにも関わらず、父のきっての頼みで國學院に入った経緯がある。
「春樹氏には、若いころから父親の後を継ぐ長男の役割を託されていたようです。大学卒業後の65年には角川書店に入社し、70年には映画『ある愛の詩』『いちご白書』の原作本を出版してヒットを飛ばすと、翌年には横溝正史のミステリー小説を仕掛け、角川書店を一躍人気出版社に押し上げました。さらに76年からは『犬神家の一族』で映画製作に着手。『人間の証明』『蘇る金狼』『魔界転生』『セーラー服と機関銃』『蒲田行進曲』など数々の名作を世に送り出すヒットメーカーとなったのです」(映画評論家)
一方で春樹氏は当時、「俺の魂はスサノオノミコト」「35歳で海を漂流してるときに神通力に気付いた」「訪れた先の旅館で天狗の封印を解いた」などといった奇怪な発言を連発。武田信玄やヤマトタケルの生まれ変わりを自認するなど、特異なキャラとしても名を馳せた。
「そうした中、まず93年7月9日に成田空港で違法薬物79グラムを足に巻き付けて密輸しようとした角川書店写真室の係長が逮捕。さらにこの係長が、春樹氏が使用するために過去十数回に渡ってロサンゼルスに買い付けに行かされていたことを供述したのです。春樹氏はこれを否認しましたが、科学鑑定で春樹の毛髪から薬物を使用した形跡が検出されたことなどから8月29日に逮捕。00年に懲役4年が確定したのです」(ルポライター)
保釈中の95年に立ち上げた角川春樹事務所の会長兼社長を現在も務める春樹氏。その傍ら、77歳にして学生時代に入れ込んだボクシングのトレーニングを積んでいるとも伝えられ、かつて“出版界の風雲児”とも呼ばれた強靭な精神はそのままにレジェンドぶりを貫いている。
(小林洋三)