元グリーンベレーVS東京地検、ゴーン被告をめぐる“攻防戦”の行方

 国際犯罪に詳しいジャーナリストが苦笑いしながら言う。

「今回逮捕されたのは、言うなれば『ランボー』とその息子ですからね。この2人がちょっとやそっとの聴取で口を割ることはまずない。つまり、日本の捜査当局がいくら躍起になったところで、彼らの口から事件の全貌が語られる見込みは薄いということです」

 東京地検特捜部は3月2日、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(66)が、保釈中に中東レバノンへ国外逃亡するのを手助けしたとして、マイケル・テイラー容疑者(60)と息子のピーター・テイラー(28)の両容疑者を犯人隠避容疑で逮捕。2人は同日、東京拘置所へと移送された。

 2人の逮捕容疑は、2019年12月29日、楽器や音響機器に用いられる運搬ケースに元会長を隠すなどし、関西空港からトルコ経由でレバノンに逃亡させたというものだが、

「アメリカ捜査当局によれば、2人はゴーン被告の不法出国の数カ月前からたびたび日本を訪れ、綿密に計画を練ったと言われています。ゴーン被告側から9回にわたって計136万2500(約1億4600万円)相当の送金を受けたことも判明しています」(全国紙社会部記者)

 特捜部は20年1月に逮捕状を取得。アメリカ捜査当局は5月、日米間の犯罪人引き渡し条約に基づき、親子を逮捕。米連邦地裁が9月に引き渡しを認める判決を出し、国務省も10月に引き渡しを承認した。ただ、引き渡しについては実は二転三転あったのだという。

「というのも、マイケル容疑者は、アフガニスタンで反政府組織タリバンに拘束された米紙記者の解放作戦、またレバノンでの史上最高額となる大麻押収作戦などで、数々の手柄を立ててきた、米陸軍特殊部隊『グリーンベレー』の中でも英雄として知られる人物。そんなこともあって、政界にも俄然顔が利く。関係者の間では『バイデン政権だから実現したものの、かりにトランプ政権だったら引き渡しが実現したかどうかわからない』という声も少なくありません」(前出のジャーナリスト)

 マイケル容疑者を取材した米紙によれば、ゴーン氏の逃亡を手助けした最大の理由は、報酬云々ではなく、キャロル夫人から聞かされたゴーン氏の拘置生活にあるという。東京拘置所での暮らしについて「狭い拘置所で外出は30分のみ」「尋問は最大8時間」「まるで戦争捕虜のよう」と、その窮状を聞き、日本での劣悪な環境からゴーン氏を助け出すことは、まるで特殊部隊の救出作戦のようにとらえていたフシがあるようだ。

「アメリカ検察当局の取り調べで、マイケル容疑者はゴーン氏から受け取った金は、そのほとんどが飛行機代や協力者への報酬に消えたと主張。危険を犯した背景には”解放”という大義があったと強調しています。実は、マイケル容疑者自身も、過去に米国防総省との契約をめぐり、賄賂を渡したとして実刑判決を受けたこともあり、米誌に『やってもいない罪を認めるよう強要され、人生を壊された』と当時の心情を回顧したことがあります。日本の捜査当局にも敵意を抱いているのは間違いないので、口を割るとは考えにくい。犯人隠避や入管難民法違反では、最高でも3年の懲役ですからね。このまま完全黙秘して刑期満了で放免。そんな流れになる可能性は高いでしょうね」(前出・ジャーナリスト)

 さて、ランボーと東京地検特捜部との闘いの結末やいかに……。

(灯倫太郎)

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