盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
「たくさん走って、たくさん投げるという時代ではない。わからなかったことがスポーツ医科学の発展で解明されてきている。それを活用しながら、早くうまくなってもらいたい」
巨人の投手コーチに就任した桑田のこの発言に、賛否が分かれた。
これに対して張本さんが、TBSの番組「サンデーモーニング」で「何を言うとるんだ。そういうこと言っちゃダメだよ。練習を徹底的にさせなきゃダメ」と注文をつけた。僕も張本さんとまったく同じ考え。時代は変わっても、金田正一さんの教えでもある「投手は足で投げる」は永遠の真理やと思う。
張本さんも言っていたけど、頭だけで野球をやるなら、実際に桑田が教えていた東大の野球部がいちばん強くなる。科学的に最高のフォームを解析しても、それを可能とする土台がないといけない。下半身のバネ、強さも必要やろうし、バランスを崩さずに投げ続ける体力がいる。そしてその最高のフォームも、体で覚えるぐらいに投げ込んでこそ、自分のものになる。マウンドであれこれ投げ方を考えるのは、打者と対戦する以前のレベルやから。
桑田自身はたくさん走って、たくさん投げて、甲子園の優勝投手から巨人のエースとなり、大リーグで投げるまでになったはず。リハビリ中に黙々と走り込んで、グラウンドの芝生がなくなった「桑田ロード」は有名な話。僕が印象に残っているのは、晩年の頃のキャンプ。まっすぐばかりをリズムよく何球もひたすら投げ込んでいた。まさしく頭ではなく、体に覚えさせる感じやった。桑田も決して科学的な指導だけでエースを育てられないことは、わかっていると思う。
確かに「理にかなったフォームが大切」なのも間違いない。野手と投手と違うけど、僕も桑田も体格的に恵まれた選手ではなかった。効率よくパワーを生み出さないと大きな人に対抗できない。その強い思いが極端な発言につながったのかもしれん。僕の場合は西本監督にスイングの型を教えてもらい、ひたすらバットを振った。間違ったフォームで振り込んでも打てるようにはならなかった。でも確実に言えるのは、練習せずに一流になった選手はいない。落合だって人が見ていないところで練習していた。あの新庄ですら、隠れて誰よりも練習していたと自分で言うぐらいやから。
毎年、ともにオリックスのキャンプで臨時コーチを務めていた山田久志も「こんな少ない球数で1年もつのかな」とよく首をかしげていた。ブルペンで100球ぐらいしか投げずに、試合で130球投げられるはずがない。肩は消耗品と言われるけど、肩のスタミナをつけることは絶対に必要やと思う。
ところで桑田はチーフコーチ補佐という肩書で、巨人の1軍投手コーチはチーフの宮本と杉内の3人となった。興味深いのが、杉内が桑田とは違う考えを持っていること。新聞のインタビューでランニング量の少なさを指摘していた。「根本的な根性」も鍛えていくと発言していた。今年から1軍コーチに昇格した杉内も桑田と同じく、小さな体で下半身の力を最大限に使い、球界を代表するサウスポーになった。今の時代もある程度のスパルタは必要とわかっているようや。指導理論の違う2人がコーチとしてどういう答えを出すのか、注目していきたい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。