「クイズ番組だけはやりたくない」ブームの影でテレビマンが苦悩するワケ

 年末年始の特番ラッシュも一段落。テレビ番組もようやく“通常運転”に戻ったが、夜7時からのゴールデンタイムで幅を利かせているのが、バラエティ系から頭脳系まで、様々な形の「クイズ番組」だ。

「日テレの『THE突破ファイル』『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』、またTBSの『東大王』『クイズ!THE違和感』に、フジテレビの『ネプリーグ』『今夜はナゾトレ』『潜在能力テスト』、そして、テレ朝の『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』などなど、これに不定期のクイズ番組を入れるといったいどれくらいあるのか。しかも、どの番組も安定した視聴率に支えられていますからね。これも、勉強好きな日本人の国民性を物語る、ひとつの現象かもしれませんね」(テレビ雑誌ライター)

 実際、クイズ番組に携わる制作会社スタッフは、「通常のバラエティ番組の苦労を5としたら、クイズ番組のそれは10ですかね」と苦笑いしながらこう明かす。

「歴史問題を取り上げるにしても、ネタによっては諸説あり、今まで正しいとされていた史実が実は間違っていたなんていう記録が発表されていたりする。微妙なネタを扱う時は、『諸説あります』とテロップを入れるのが常識で、これが健康関連の問題になるとさらに厄介。昨年まで正しいとされていた健康法に、実はきちんとしたエビデンスがなかったとかね。そこを確認せずにオンエアすると、当然クレームの嵐です。某番組では訴訟問題に発展したというケースもあったため、とにかくダブルチェック、トリプルチェックが当たり前。つまり、労働時間を考えると、とても制作費に見合わない。だから『クイズだけはやりたくない』というテレビマンは少なくないんです」

 番組としての面白さを追求するより、とにもかくにも「コンプライアンス厳守」なのだとか。

「一昔前は回答者のタレントにこっそり答えを教える、ということも実際にあったようですが、今、そんなことをやったら袋叩きに合いますよ(笑)。昨年の4月、『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジテレビ系)で、解答権のないエキストラを20人以上動員していた、というやらせ問題が発覚。さらに東大卒のタレントが、SNS上で自分が作った“謎解き”がパクられているという旨の発言をして物議をかもしました。だから、今はパクったと思われただけでもNG。ただ、これだけクイズ番組が乱立していれば、ネタがかぶるのはある意味仕方がないこと。つまり、クイズ番組の制作には、大きな精神的負荷がつきまとうわけです」(前出・スタッフ)

 では、なぜそんなに過酷な制作環境のなか、今なおクイズ番組は量産され続けているのか。

「たとえば、『今夜はナゾトレ』(フジテレビ系列)から派生して書籍化された『東大ナゾトレ』(扶桑社)は、120万部を突破する大人気ベストセラーシリーズとなりました。出版界にもクイズ番組から書籍化という流れが出来上がっています。加えて、クイズ番組は番組のフォーマットを海外に売ることが出来るため、一度作っておけば二次使用、三次使用でおいしい思いができるというわけです。しかも、コロナ禍でロケがしにくい現状が続いていますからね。クイズ番組なら最悪、オールリモートでの収録も成り立つ。つまり、クイズ番組はテレビ局にとってはなくてはならない超優良コンテンツなんです」(放送作家)

 なるほど、クイズ番組量産の裏にはそんなテレビ局ならではの事情があったというわけか。とはいえ、お茶の間の盛り上がりをよそに、テレビマンたちの苦悩はしばらく続きそうだ。

(灯倫太郎)

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