矢野燿大監督は「クローザー藤浪」の構想を捨てていない。2020年、セ・リーグでセーブ王の座に輝いたロベルト・スアレスの残留が決定的となった。メジャー移籍を視野に入れており、いったんは保留者名簿からも消えたが、阪神渉外担当者の根気強い交渉が実を結んだようだ。
「残留確実の一報が入る前、矢野監督は関西ローカルのテレビ番組に出演し、藤浪のクローザー起用について質問されました」(在阪記者)
そのときの回答は、「ゼロではない」と含みを持たせたもの。その後、スアレス残留の一報が入り、藤浪晋太郎も契約更改後の会見で「先発一本!」と力強く語っていた。
藤浪は先発、クローザーはスアレス。これで一件落着と思ったら、そうではないという。
「阪神内には、万が一に備えるべきとの意見がけっこう出ているんです」(球界関係者)
スアレスは20年シーズン、51試合に登板し、25セーブを挙げた。セーブ王の初戴冠もそうだが、防御率2.24、ホールドポイント33はキャリアハイ。来日5年目で、もっとも活躍したシーズンだった。
「ソフトバンクに移籍した来日1年目の16年シーズン、58試合に登板しましたが、翌年は故障でシーズンを棒に振っています。トミー・ジョン手術も受け、20年になってようやく本来のピッチングを取り戻したという見方もできますが、2年続けて活躍したことがないのです」(前出・球界関係者)
藤浪は救援登板で復活した。1イニングという限られた対戦のなかで全力投球しながら、攻める気持ちも蘇っていった。その20年シーズン後半、他の先発投手が好調だったため、しばらくはリリーフに徹したが、身長197センチという大きな体全体を使って投げ下ろす投球に、対戦バッターは皆、「コワイ」を連呼していた。その「コワイ」とは、ノーコンでぶつけられるという意味ではなく、ダイナミックなピッチング・フォームにあり、矢野監督も「リリーバーの適性アリ」と見ていた。
スアレスの状況次第では、藤浪のリリーフ再転向は十分に考えられる。
「藤浪のモチベーションにも影響してくるので、今は『リリーフの可能性』とは言わないようにしているだけ。矢野監督はスアレスに何かあったら、その代役は藤浪か、岩崎優と見ています」(前出・球界関係者)
矢野監督はスアレス残留の報告がされる前、中継ぎで復調し、先発に戻っていく藤浪を見たいと言いながらも、「何かあったら」と何度も繰り返していた。阪神優勝のカギは、藤浪にリリーフ専念を告げるタイミングにありそうだ。
(スポーツライター・飯山満)