診療はLINE、自宅でダイエット注射…オンライン痩身医療に潜む重大リスク

「自宅で注射するだけ!」をうたい文句にした、オンライン美容医療が広がりを見せるなか、国民生活センターが9月初旬、「自宅で手軽に完結? 手軽にやせられる? 痩身をうたうオンライン美容医療にご注意!」という強いメッセージで警告を発した。

「海外ではかねてから糖尿病の大半を占める2型糖尿病患者に対し、医師がオンラインで診察を行い、患者本人が自宅で『GLP-1受容体作動薬』という薬剤を自分で注射するという肥満治療が行われてきました。ところが、昨今の日本では、この薬剤を痩身目的で処方しているケースが多く見られるようになったんです。なお、2型糖尿病は肥満や運動不足だけでなく、家族に患者がいるとかかる確率が高くなるという遺伝性の要因もあり、詳しい原因がわかっていないんです」

 そのため、「GLP−1受容体作動薬」は2型糖尿病の治療目的で製造販売が承認されており、ダイエットや痩身といった適応外使用は認められていない。

「したがって、医師には必ず患者に対して有効性、安全性が確認されたものでないこと、また副作用に危険性があることを、きちんと説明する義務があります。にもかかわらず、『GLP-1受容体作動薬』を注射していたクリニックの大半は、説明義務が果たされていなかった。そこで7月には日本糖尿病学会が『不適切な薬物治療によって患者さんの健康を脅かす』と声明を発表。国民生活センターも怒りを込めた警告を発したわけなんです」(医療ジャーナリスト)

 国民生活センターが発表した事例には、思わず目を疑いたくなるようなケースもあり、

「たとえば、オンラインでカウンセリングを受けたという30代の女性は、ビデオ通話でアドバイザーと名乗る人から連絡が来た後、電波が悪いと通常の電話に切り替えられ、すぐにコースや料金、自己注射の方法についての説明があり、その後、医師に代わったが具体的な診察はなく、治療を受けるかどうか聞かれただけだったといいます。指定された口座に“治療費”の50万円を振り込むと、数日後、注射器やサプリメントなどが届いたものの、後日、海外から原則冷蔵保存されるはずの薬剤が常温で届いてビックリ。自分で薬剤を注射後、吐き気など副作用が出たため、クリニックに相談したそうですが、アドバイザーが薬剤の量を調整するよう指示をするだけで医師の対応はなかったといいます」(前出・ジャーナリスト)

 さらに、4カ月50万円のコースを「今日契約すれば5万円割引する」と勧められ、契約後に届いた糖尿病治療薬の注意書きに副作用のリスクが記載されていたため慌てて解約したという40代女性のケースや、申込時に「クレジット契約の審査が通れば申込みしたい」とLINEでメッセージを送ると、審査は問題なかったものの、30万円という高額な契約なので「やはり今一度考えたい」と伝えると、「クレジット契約の審査が通った時点で契約は成立しているので解約できない」と突っぱねられたケースもあり、まさに悪徳商法さながらといったところ。前出のジャーナリストが続ける。

「GLP-1はもともと私たちの体の中にもあるホルモンで、血糖値を下げる働きがあるのは事実。しかし、血糖値が下がりすぎると、低血糖という状態になり、倦怠感や意識消失といった症状が出るケースも珍しくなく、発症のタイミングや場所によっては命を落とす大事故につながりかねません」

 コロナ禍のなか、休日返上で懸命に働く医療従事者がいる一方で、医師という肩書を利用して詐欺まがいのダイエット商法に加担する輩がいることに怒りを覚えるが、弱り目に祟り目。利用する側が「無知は罪」と捉えることこそ最善の防御策なのかもしれない。

(灯倫太郎)

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