危険な潜入ルポを得意とするライター兼イラストレーターの村田らむ氏。その活動範囲は海外に及び、韓国へ“幻のグルメ”を求める旅に出たのだが……。さて、日本では絶対に食べられないZ級グルメのお味とは?
2018年の夏に、韓国のチェジュ島へ旅行した。韓国のハワイと言われる観光島だ。
同行した韓国マニアの編集者に、
「どうしても食べたい料理があるんです。セキフェという名前の料理なんですが、豚の胎児が入った豚の子宮をそのままみじん切りにして生のまま食べる料理ですよ」
と言われた。聞いただけで、頭がクラっとした。編集さんがその料理を知ったのは、開高健のエッセイであり、いつか機会があったら食べてみたいと思っていたそうだ。
しかしインターネットで調べても、レストランは見つからなかった。現地についてからも、ホテルの店員などにちょくちょく聞いたのだが情報は得られなかった。諦めかけた時に、タクシーの運転手に聞いてみると、
「ああ、知ってるよ。最近はずいぶん減ったけど。俺も食べてないね」
とあっさりと情報が見つかった。そのまま、運ちゃん御用達のお店に連れて行ってもらったのだが、看板すら出ていなかった。ガラガラと引き戸をあけると、とっくに廃墟になっているようだった。責任を感じたのか、仲間の運ちゃんに話を聞いてくれて、営業しているお店を探してくれた。
「済州畜産協同組合畜産物共販場」という食肉工場が島の西部にあり、そのそばに食堂があるそうだ。そこに向かいながら当時の話を聞いた。
「昔はよく食べたよ。酒を飲んだ後に、ザザザッと食べるんだ。食べると目玉がツルンと出てくることもあったよ」
と楽しそうに話す。日本で言う締めのラーメンみたいなものか。しかしなんで流行らなくなってしまったのだろう?
「たしか食中毒が流行って。それで一気に食べなくなったような気がする」
かなり残念な理由でなくなったようだ。
タクシーは食肉工場に到着した。工場の周りには食堂が何軒もあり、ずいぶんな人気店もあるようだった。しかしセキフェが食べられるというお店「春夏秋冬」は地味な見た目で、店内も空いていた。
おそるおそる、セキフェがあるか? と頼むと、店員はうなずきながらも驚いた顔をしていた。日本人が頼むケースは珍しいのだろう。しばらく待つと、キムチや青唐辛子などの小皿とともにセキフェは運ばれてきた。表面には海苔とネギとゴマがピッチリ敷かれていて中は見えない。おそるおそるスプーンでかきまわすと、中から生肉が出てきた。液体は血の赤だ。こう書くととてもグロテスクな料理に聞こえるが、ユッケが液体に入ってるという感じで特に気持ち悪さはない。酢を入れるとますます食べやすくなった。
このお店のセキフェは、子宮をみじん切りにしたもので、胎児は入っていなかった。僕はホッとしたが、編集さんは少し残念そうだった。
たまには食べるかと言って、一緒にテーブルを囲んだタクシーの運転手は、
「久しぶりに食べたな。でも昔の方が美味かったような。鮮度が良かった気がする」
とちょっと納得いかないようだった。
昔だって、食中毒が発生してたんでしょ!! と思ったが、胸に押し止めた。
現在ではなかなか食べる機会がないセキフェだが、もしチャンスがあったら食してみてはいかがだろうか?
(写真・文/村田らむ)