「今年1月には創業320年を誇る山形県最後の老舗百貨店の『大沼』が破産、8月には『そごう徳島店』が閉店して百貨店が存在しない都道府県は2つになりました。昨年は10店舗以上が無くなり、地方の店の半数は赤字と、地方の百貨店は消滅の危機に瀕していましたが、さらに今年はコロナ禍に見舞われて消滅のスピードは日を追うごとにアップしていくでしょう」(経済ジャーナリスト)
今や小売りの主流は郊外型のショッピングモールに移り、車社会の地方はなおさらその傾向が強い。だから、いまさら百貨店がなくなったと聞いたところで「またか」という感想しか浮かんでこないのが現実だが、
「全国でタンスの中に眠っている百貨店商品券は2000億円以上にも及ぶ」
と聞けば、その額の大きさには驚かざるを得ない。企業の倒産情報で知られる商工リサーチがそんな記事を掲載した。
記事によれば、全国約500店舗で使用できる「全国百貨店共通商品券」や自社の百貨店のみで使える「商品券」やギフトカード、積み立て式の「友の会」などの商品券が世の中で発行され、日本百貨店協会が公表している商品券の売上高は2010年の2707億円をピークにこの10年間で減少している。それでも2019年には1302億円分が発行されたという。そして、43の百貨店が回答したところによると、その未使用残高は2018年度で2459億円に達しているというのだ。
だが使用できる百貨店は消えつつある。さらに記事によれば、商品券には基本的に有効期限はないものの、発行した店が倒産や廃業した場合は話が別だという。山形県の大沼の場合はもう還付手続きは終了しており、8月末をもって福島店が閉店した老舗百貨店の「中合」の場合、自社の商品券は既に使うことができず、共通商品券も11月末で使えなくなり、救済措置が取られなかった場合は紙クズとなってしまうのだという。そして事実、宇都宮市の「上野百貨店」(00年閉店)や北九州市の「小倉玉屋」(02年閉店)など10の百貨店が発行した共通商品券は利用ができなくなった。
「1891年に呉服屋として創業した和歌山県の老舗百貨店の丸正では、00年に売り上げが激減して信用不安に陥ったところ、わずか5カ月の間で9億円もの商品券が流入するという事態が生じました。店が無くなる前に使ってしまおうということです。その結果、丸正では共通商品券の発行を停止、共通商品券の全国組織側も丸正発行のものの取り扱いを停止するということが起こりました」(前出・経済ジャーナリスト)
百貨店が華やかなりし頃、贈答などで持て囃された商品券も、使う場所がなくなれば紙クズとなってしまうという悲しさ。と同時に、日本のタンス預金の大きさをも示す話だ。
(猫間滋)
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