世界の福本〈プロ野球“足攻爆談!”〉サンズは久々の「ほんまもん助っ人」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 早いものでプロ野球のペナントレースも半分を消化した。開幕前の順位予想で優勝候補の1番手に挙げた阪神はスタートでつまずいたが、8月後半になって戦う形ができてきた。60試合を終えて、29勝28敗3分けの貯金1。首位・巨人とは6.5ゲーム差での折り返しとなったけど、なんとか後半戦に勝負をかけられる位置につけている。

 前半戦のMVPを一人挙げるとしたら、新外国人のサンズやな。開幕時はボーア、マルテより下の位置づけで2軍スタートやった。ところが、マルテの故障離脱でチャンスをもらうと、徐々に信頼を得て、今や4番を任されるまでになった。近年はニセモノ助っ人が多かった中で、久々にほんまもんの助っ人と言える。

 昨年、韓国で打点王を獲得したのも納得。チャンスでの集中力はすさまじく、両リーグトップの4割後半の得点圏打率は、まぐれではない。走者がいない時はあっさり三振することがあるけど、ここ一番では別人になる。日本の配球に慣れてきた感じやし、我慢強さは特筆すべきものがある。

 クローズドスタンスで構えるから、外角の変化球にバットが届くし、逆方向のライトにも強い球が打てる。日本で失敗する外国人が共通の泣きどころの外角に逃げるスライダーを苦にしていない。弱点はインコースで、他球団も執拗に投げ込んでくるけど、ボールには手を出さないし、ファウルで逃げることもできている。あれだけ内角を突かれたら、意識させられて多少のボール球でも振ってしまうもんやけど、大したもの。ちょっとでも甘くなったらきっちり仕留めるんやから、相手バッテリーへのプレッシャーは相当なもんや。1年目から打点王のチャンスがある。心配していた外野の守りも、守備範囲は広くないけど、球際には強い。ここまでは文句のつけようのない働きや。

 サンズがうれしい誤算としたら、正真正銘の誤算は糸井やな。7月2日に史上30人目の通算300盗塁にリーチをかけてから、どこまで待たせる気や。ホームランはもっと出ていない。6月27日に1号を放ったきり。引っ張った強い打球が打てないし、センターから左翼方向へのミートするだけの打撃が目立つ。開幕時の構想では1番打者を期待されていたけど、打率も2割台前半で、試合に出たり出なかったり。両膝に古傷を持っており、相当に具合が悪いんやと思う。走る姿を見ていても、こわごわとやっているのがわかる。今年が4年契約の最終年やから、気合いを入れて巻き返さんと進退も危なくなる。

 そして、阪神は「球児引退」を追い風にしなアカン。8月31日に一時代を築いた藤川球児が今季限りの引退を表明した。会見では打倒巨人へ、もう一度チームに奮起を促すようエールを送った。広島の黒田の時のように「球児のために」と一丸になって、日本シリーズのマウンドという最高の花道を用意する気持ちで必死に戦ってほしいな。

 前半を終えた段階で、他の4チームには勝ち越しているのに、巨人にだけ2勝8敗と大きく負け越し。ほんまに情けない。ふだんの練習から打倒巨人に目の色を変えて取り組む必要がある。選手の伝統の一戦への思いは年々薄れている感じがするけど、巨人にだけは勝ってほしいという阪神ファンはいまだに多い。カモを返上して、白熱した優勝争いで楽しませてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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