「コロナの前は基本給が10万円でそれに歩合給がついていました。歩合のメインの収入は“チェキ”の撮影やCDの物販などで、ピーク時には合わせて月収が40万円くらいになりました。ぜいたくさえしなければ、年に2回は海外旅行に出かけることもできたのですが…」
こう言って肩を落とすのは7月いっぱいまでアイドル活動を行ってきたというアヤさん(仮名・24歳)。チケット販売事業などを手掛ける「ぴあ」が今年5月に発表した試算によれば、新型コロナウイルスが日本のライブエンタメ業界に与えた経済損失は、市場全体の約77%にあたる約6900億円にのぼるという。
名の売れたアーティストならば、有料のオンラインライブなどで一定の収入が見込めるかもしれないが、アヤさんのように地道な活動を続けてきたアイドルは、次々と廃業を余儀なくされているという。
「私の場合は個人事業主としてきちんと確定申告をしていたので、持続化給付金でなんとか食いつないでいましたが、それも尽きそうで…。他のメンバーとも話し合って、グループの解散と引退を発表したんです。本当なら解散ライブをやって、ファンの人たちにもきちんと挨拶がしたかったのですが、通常の3割くらいしかお客さんを入れられないし、チェキも売れないし、『やるだけ赤字』と言われて断念しました」(アヤさん)
そんな彼女が引退を決意したきっかけが、6月末に所属事務所から送られてきた「給与明細」だった。
「明細を見てビックリしました。基本給がゼロになるっていう話は事前に聞いていたので納得したのですが、歩合給の欄がマイナスになっていたんです。なんでも“投げ銭”を目当てに、オンライン限定でライブをやったものの、思ったよりも収益が出せなくて、配信を手がける会社に製作費を払ったら赤字になってしまったとか…。でもそれって、事務所が負担すべきじゃないかと思って抗議したら、『辞めたきゃ辞めれば? でも“借金”は清算してね』なんて言われて…」(アヤさん)
現在はSNSを駆使して、個人的にオンラインでのファンミーティングなどで生活費を稼いでいるという。また、こうした困窮する地下アイドルに目をつける輩は少なくないようで…。
「事務所を辞めたことを公表した途端に、ツイッターのDMでそのテの誘いはたくさん来るようになりました。『フリーならうちの事務所に所属しませんか? きちんとマネジメントします』っていう甘い文句に誘われて、“面接”に行ったら、『お金になるいいバイトがある』と、裏系の仕事を紹介されそうになって、あわてて帰りました」(アヤさん)
じつはこうしたフリーの地下アイドルを怪しい“裏バイト”の世界に誘い込む手口が後を絶たないという。アイドル事情に詳しいジャーナリストが語る。
「マスクを着用すれば顔バレしないから…なんて言葉に騙されて、“艶系動画”の撮影に参加してしまったという女性の話をよく聞きます。ある元アイドルの女性は、たった5万円のギャラにつられて、ホテルでの撮影に協力。絶対にアイドル時代の名前は出さないという約束だったにもかかわらず、そのアイドル名をつけたタイトルで動画販売サイトにアップされてしまいました。このテの“素人系”は編集もズサンなため、見えてはいけない部分が見えてしまうことも珍しくありません。こうした元アイドルたちは顔が売れているため、飲食店などでバイトをすればすぐに噂が広まってしまうのでなかなか働きづらい。こうした事情を知ったうえで、言葉巧みにアプローチを仕掛けてくる悪徳業者には注意が必要です」
一刻も早いコロナ禍の収束とアイドル業界の復活を望むばかりだ。
(平沼エコー)