ある「地下アイドル」の告白(3)ファンとの距離が近いフリーアイドル

 父親が舞台関係、母親が音楽関係の仕事をしていて、その縁で結婚したという芸能一家に生まれたライカさんにとって芸能界は幼い頃から身近な世界だった。中学2年で世間ではAKBが華々しく活躍していた時、クラスでいじめられていたライカさんになぜか、「AKBのオーディションを受けるらしい」という噂が立ち、それを口実にまたいじめられた。そこで、「いじめっ子たちを見返してやろう」と決意し、漠然と抱いていた芸能界への憧れを実現すべく、オーディションを探しては受けまくり、「コンテストへの応募の方が良いのでは」という意見を聞けば、コンテストを探しまくった。

 そんな中、ある有名事務所のオーディションに合格。だが、養成所の入学金が120万~180万円、レッスン料が月3万円もかかるという話を聞いて止めた。次に声をかけてくれた事務所は、通常は80万~90万円かかるが、特待生のような形で60万円にする、「しかも仕事をしながら分割で払ってくれれば。是非ウチでやらせてほしい」という熱心な勧誘にほだされる形で所属することにした。

 養成所と事務所の仕事を両立していく話だったが、肝心の仕事はほとんどなかった。自分から出向いて仕事をもらえるよう努めたが、マネージャーに信頼できる人がおらず、「枕営業をしろ」とまで言われる始末。それでも1年間の養成所の卒業を迎えようというタイミングで、ライカさんに「アイドルをやってみないか」という話が来た。そこでアイドル活動的な仕事もやり始めたのだが、アイドルとしての契約をしていなかったので、仕事をしてもギャラが下りて来なかった。それで事務所とモメて辞めた。

 その後、さまざまなオーディションを受ける中で決まったのが、アイドルユニットのメンバーだった。2期目のメンバー募集ということで、形としてはすでにあるという話だった。以前の担当者がこの会社に移籍していて、「ここはしっかりしているから。演技もやっていいし」という触れ込みだった。

「ところが入ってみたら一番ひどかった。ひどいところから来てひどいと思ったから世間的にもひどい方のはず」

 30人のユニットが、会社の方針が変わるごとにメンバーのクビが切られ、10人に減っていた。しかも、10人がまとまって活動するのではなく、選抜組というコアメンバー5人を中心に回すという中途半端な形。最終的に自分を含めた5人がクビを切られた。しかも明確な説明がなかった。

「何がひどいかって、言ってたことと実際がぜんぜん違ったんです。事前の話だと、『ダンスやボイトレのレッスンはしっかりやります。仕事の査定も全面的にしてきちんとお支払いすべきはお支払いして、メディアにも出れます』との触れ込みでしたが、何一つ実行されませんでした。『デビューは〇〇(某有名ライブ会場)でお披露目をしましょう』という話だったのが、現実には渋谷の少し大きめのライブハウスでしたし」

 話が変わることは業界としてあることなので仕方がないので、そうなったこと自体に文句があるわけではなく、何の理由も説明されないままそうなってしまうことがどうしても許せなかったという。
 
「説明を求めるといつも半ギレなんです。理由もないまま働かされていて、ロボットそのものでした。運営する側の事務所とアイドルって一緒に頑張っていくものと思っていたんです。じゃないと上手くいくはずがないですから。でも、上(運営側)が降りてきてくれないのが理解できません。一緒にやろうって気持がない? それなら私たちは最初から必要じゃないってことになります。『必要とされていない。大事にされていない』と感じていました」
 
 ゴールデンウィーク明けの5月某日、都内の有名公園ではライカさんの撮影会が行われていた。事務所をクビになって後に会社を辞めたマネージャーが声をかけてくれて、フリーでのアイドル活動を継続することにしたからだ。

 この日集まったのは、ライカさんを推しメンとしていた男性ファン5人。中にはこの日のために15万円する一眼レフを購入したというファンもいた。一晩かけて車を運転して駆けつけたという人もいた。

 ファンの男性に話を聞くと、

「応援したいという気持ちに特に変わりはありません。こんなこと言うとアレですけど、より身近に接することができて、むしろ良かったとも思っています」

 撮影会終了後、ライカさんに今後について聞いた。

「正直、迷っています。他のバイトも試してみたんですが、どうしても芸能界のことが頭から離れなくて…芸能活動以外は続かないと思っています。『地下アイドル』に対する疑問ですか? それは自覚しています。ちゃんと審査された子が活動した方が夢がつながるのじゃないかって。地下は地下で変なことされて終わることもあるし、今はアイドル好きがプロデューサーをすることも多く、ド素人のおじさんが女の子を集めて、変な物販のやり方をしてニュースになったこともありました。ファンとアイドルがラップ越しにチューするとか。特典会ってアイドルにとってとんでもないストレスなんですが、そういったことが分からない素人がやるからそういう問題が出てきちゃうんだろうし、やはりアイドルは厳選してやった方が一番理想なんじゃないかと思っています」

 ちなみにこの日の売り上げは、撮影会参加費や撮影代金など、わずか数時間で約10万円。やはり商売としてはボロい。
 
「ただ、ファンの人数が特定の人間に限定されるので広がりはなく、焼き畑農業的にファンを獲得していくしかない。彼らの懐具合がそのままマーケット規模になるんですが、いくら湯水のようにお金を使うと言っても、給料日前にはお金がないなど彼らにも彼らの生活がありますからね。だからこちらが売り上げが少ないからイベントをやりたいからと言って、頻繁に行うわけにもいかず、その辺りの匙加減が難しい。ほんと、変な世界ですよ」(元担当マネージャー)

(猫間滋)

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