「ブラックの方でもOK!」、「即日現金化」、「働いている方であれば誰でも可能」……。
こんな謳い文句で「あなたの給与買い取ります」と誘いかけてくる、いわゆる「給与ファクタリング」というサービス。その給与ファクタリングに捜査の手が伸びた。7月29日、大阪府警生活経済課は東京都内の給与ファクタリング業者を摘発、従業員4人を貸金業法違反(無登録営業)の容疑で逮捕したのだ。
給与ファクタリングとは、働いている人が会社から給与を受け取る権利を業者に売却し、給与から手数料を引いた額の現金を受け取れるという仕組み。例えば、月末に20万円の給与が会社から振り込まれるがそれまで所持金がもたないといった人が業者に頼めば、給与という債権を業者が買い取る形で20万円から手数料を引いたおおよそ15万円ほどの現金を受け取ることができ、それでなんとか月末までやり過ごしたところで、実際に振り込まれた20万円の給与を業者に引き渡すという流れになる。
今回の摘発事例の場合、15万円の給与で、うち9万6000円の現金を得たというから、かかった手数料は5万4000円。もし年利に換算すれば1620%という“ハイパー高金利”を支払ったことになる。もはや貸金業法違反は明確だが、こんな暴利を貪る商売が横行しているのもグレーな理屈を用意してあるからだ。
「『給与を受け取る権利』という『債権』を売却した『売買契約』だから貸金業ではないという方便で成り立っているからです。だから世間では黙認されていましたが、金融庁が『法的根拠がないので違法とは言えないが、仕組み自体が認められず、貸金業に該当する』といった趣旨の見解を表明。注意喚起を行っていました」(社会部記者)
つまり、法律的にはグレーだが、現実的には貸金業と同じ。貸金業の届け出をしていない給与ファクタリング業者の扱いに注目が集まっていた中、今回の大阪府警による摘発となった。資金業法違反の根拠も無登録営業で、つまりはヤミ金と同じというわけだ。
「ファクタリング自体は債権譲渡なので、もともとビジネスの世界での資金調達の手段として行われていました。短期の資金繰りに窮した中小・零細業者などが未回収の売掛債権をファクタリング業者に買い取ってもらい、つなぎ資金などとして用いるものです。そんなファクタリング業者の台頭が見られたのは東日本大震災の頃から。震災の影響が体力の落ちた業者の資金繰りを圧迫したからです」(前出・社会部記者)
そしてその後も台頭は続き、あまりに旨みの大きいビジネスのため、上場企業や銀行系の企業も(その分、低利で審査に厳しいが)参入している。そしてここ数年は法人ではない個人の世界にもファクタリング商法が侵入し、昨年あたりから集団訴訟が起こされたり、そもそも給与の買い取りを行っていなかった業者が逮捕されたりと、何かと問題となっていた。にもかかわらず貧すれば鈍する、コロナ禍で経済的苦境に立たされた人たちが給与ファクタリングに手を伸ばす事態になっていた。
逮捕された4人は3月以降、全国約2800人の債務者から利息分を含めた1億1800万円もの大金を得ていたという。これもコロナが招いた新しい犯罪様式のひとつかもしれない。
(猫間滋)