東京池袋の路上で高齢者が運転する車が次々と人をはね、11人の死傷者を出した事故が起きたのは2019年4月19日のことだった。この暴走事故によって、たまたま現場にいた31歳の母親と3歳の長女が命を落とした。この痛ましい事故によって、高齢者ドライバーの運転の危険性に注目が集まり、「免許自主返納」の動きが一気に高まった。
車を運転していた「元官僚」で「元院長」という男性は、事故からなかなか逮捕されないこともあって、ネット上では「上級国民」と揶揄する声が多くあがった。さらにこの男性の処分が「在宅起訴」だったこともあり、テレビのニュースなどでその後の顛末を知って、なんともやり場のない憤りを覚えた人も多いのではないだろうか。
そんななか、YouTubeにアップされた動画がひそかに話題を集めていた。
「警察総動員で大混乱!YouTuber職質受ける!?逮捕か?」「池袋暴走事故抗議街宣」などと銘打たれたこの動画、“撃退・報道系”を自称するYouTuberが事故の加害者となった「上級国民」の自宅前にて街宣活動を行うというもの。すでに一部のネットニュースにあがっているが、実際に再生してみると、マスクとサングラスを着用したYouTuberが、拡声器を使って声を荒げるショッキングな映像が……。
「なんで在宅起訴なんだよ、ふざけんな。出てこ〜い」
「人の命奪って何やってんだよ」
「おかしいだろ、人の命を奪ってから、なあ!」
「謝罪しろよ!表に出てこい」
こうした抗議活動がしばらく続き、やがて警官たちがわらわらと集まってくる事態に発展。そこでネットの住民が注目したのは、警官のアノ部分だったという。
「警察官がかぶる帽子に入った線に着目し、《金線二本入ってるから警視クラスか?》《てっきり署長クラスが来るかと思ったら署長バッジつけてないじゃん!》《署長クラスが現場まで駆けつけるとは…さすが上級国民》などと、警官の階級と“上級国民”を結びつける声が多く聞かれました。いずれにしても、かなり偉い階級のおまわりさんが駆けつけたのは事実のようです」(ネットウォッチャー)
この「外出自粛」が叫ばれる中で、果たして大量の警官を出動させていいものか……。ふとそんな思いがよぎるが、ネット上では《あんた最高だよ。あんたみたいな人がいないと、不正がまかりとおる世の中のまんまだ》《国民の声をダイレクトに届けてくれてありがとう》《やり方はどうあれ、この事件だけは絶対忘れてはいけない》と、YouTuberを支持する声が圧倒的多数を占めていた。
だが、「池袋暴走事故」を取材してきたジャーナリストはこの動画を見たうえでこう首をかしげる。
「動画を検証するとわかりますが、このYouTuberは被告の下の名前を何度も『けいぞう』と呼び間違えています。まあ、興奮していたので、間違えることはあるかもしれませんが…。いちばん引っかかったのは、“抗議活動”の中で『わずか7歳の女の子を…そして大切な奥さんを失った被害者のことを……』と言うくだりがありましたが、犠牲になった女の子の年齢も間違えていました。これでは街宣スタイルでネタを披露するお騒がせ芸人・鳥肌実と変わりません」
いずれにしても、このコロナ禍であっても、事件を風化させてはいけない。この一言に尽きる。
(石川ともこ)