詐欺グループが土地の権利など一切持ち合わせていない女性に、ニセの所有者として“なりすまし”を指示。大手住宅メーカー「積水ハウス」から60億円を騙し取った「地面師事件」が起こったのは2017年6月のこと(実際の被害額は約55億円)。同社では事件発覚後に“内紛”が勃発。2018年1月の取締役会で、当時の和田勇会長が退任へと追い込まれる“クーデター劇”が生じた。
その後、経営陣の混乱は、一旦は落ち着いたかに見えたが、それでも大株主として残った和田・前会長が今年2月に現役の役員と共に経営陣の大幅に入れ替える「株主提案」を提出。会社としては否決するつもりだが他の大株主がどう出るか。4月23日に開催が予定されている株主総会を目前に控え、内紛劇の第2幕が上がろうとしている。
「株主提案以後、和田さんと積水は自らに賛成する議決権を取り込もうとするプロキシファイトに突入しています。そこで鍵を握るのが機関投資家サイドの動きですが、外資系2社が和田さんの提案に一部理解を示しています。勢いを得た和田さんはさらに世論を味方につけて票を集めようとこのところあらゆる経済メディアに登場して自らの正当性を訴えかけています」(経済誌編集者)
株主提案後に合わせて行われた会見で和田氏は、クーデターを仕掛けた当時の社長の阿部俊則氏(現会長)らの現経営陣が事件の事実解明を拒み、さらには社内が「モノ言えぬ」雰囲気になっていると指摘。そのため、ガバナンスを強化するべく過半数が独立社外取締役からなる新たな組織を作るべきで、「株主提案は復讐ではない」と経済メディアに語っている。
「確かに事件当時、和田さんは国際部門を見ていたから詐欺事件は完全に管轄外。一方、国内の、それも騙された当のマンション部門を見ていたのが現会長の阿部さんです。ところが結果は、阿部さんが残って和田さんは放逐されたというんだから筋は通らないですよ」(事件を取材したフリージャーナリスト)
正当な論理をふるえば分(ぶ)は和田氏側にあり、「復讐ではない」と言いながらも結果的に和田氏の復讐が果たされるというのだ。ちなみに、株主提案の中には和田氏の取締役選任も含まれている。
「でも……」とジャーナリスト氏は話を続ける。
「和田さんが指摘する積水社内の『モノ言えぬ雰囲気』は当の和田さんが作り出したものでもあるんです。和田さんが社長に就任したのは1998年。以来、約20年にわたって権力トップに居続けて『和田天皇』とまで呼ばれていましたから。事件の調査報告書を読めば、積水が『飛んで火に入る夏の虫』のごとく、敢えて危険な取り引きに突入していった経緯が綴られています。いったん動き出したら後戻りできない文化は和田さん時代に培われたものです」
株主総会当日は、エアロゾル感染が心配される激しい舌戦が繰り広げられるのか。はたまた、プロキシー・ファイト(委任状争奪戦)によって、事前に大勢が決まってしまうのか。
(猫間滋)