時に世間を震撼させる事件を引き起こし、狂言めいた教義に人々が好奇の目を向ける。いつの世にも「カルト教団」は存在していた。日本を騒然とさせた集団は過去の遺物となり果てたのか。それとも形を変えて現在も生き残っているのか─。「オウム真理教」の「今」に迫る!
死者13人、負傷者6000人以上。95年3月20日にオウム真理教が引き起こした「地下鉄サリン事件」の被害者の数だ。あれから25年の月日が流れた。
教祖の麻原彰晃・元死刑囚と幹部ら13人は死刑執行され、すでにこの世にはいない。とはいえ、後遺症に苦しむ被害者や大事な人を失った遺族らにとっては、今でも許しがたき犯罪に違いないだろう。
そして、他の誰にとっても、何年たとうが忘れることはできないはずだ。オウムは数多くの事件を引き起こした。「地下鉄サリン」だけでなく、「松本サリン」「坂本弁護士一家殺害」。さらには、教団内での信者に対するリンチ殺人なども複数ある。これら「オウム事件」は史上最悪の「カルト犯罪」であるからだ。
ところが、当のオウムは現在も確かに息づいている。教団は地下鉄サリン事件での強制捜査後に、宗教法人格を失ったものの、活動は継続。服役していた上祐史浩氏が出所し、代表に就いた直後の00 年からは「アレフ」と名乗った。
アレフでは、麻原信仰を維持する主流派と、表向き「麻原信仰」を捨て社会融和路線を唱える上祐派が対立。07年に上祐派が独立し「ひかりの輪」を設立した。
さらに、15年頃にアレフから小規模な分派も生まれている。公安調査庁が「山田らの集団」と呼ぶ集団だ。
各団体は団体規制法に基づく観察処分の対象として、現在も立ち入り調査などが行われ、公安調査庁の監視下にある。同庁は「内外情勢の回顧と展望」(令和2年1月)で、
〈教団の信徒数は、麻原の死刑執行後も大きな変化は見られず、平成31年/令和元年においても、国内で約1650人を維持〉
と報告している。この大半がアレフの信者だが、これだけの人間が今もオウムに帰依しているのだ。
しかし、マスメディアでは、アレフや山田らの集団を警戒する報道はあっても、ひかりの輪を警戒する論調は少ない。
それは、ひかりの輪が表向きは「麻原信仰」を放棄したとして、オウム事件について長大な「総括」を発表しているためだろう。メディア側の警戒感は薄いどころか、上祐氏を時折、オウムやアレフに批判的な「証言者」として登場させるなど、オウム残党で唯一、危険のない団体であるかのように扱われているのが実情だ。
そのせいか、上祐氏は都内のトークライブハウス「ロフトプラスワン」などで文化人らと共演。一部の宗教学者はひかりの輪を好意的に評価し、中には観察処分を外させるための意見書まで提出した学者もいる。
だが、公安調査庁は監視対象から外そうとはしない。こうした上祐氏の活動が少数ながら信者獲得につながっていることもあるが、ひかりの輪は「麻原信仰」を捨てたように装っているとみているためだ。
藤倉善郎(ジャーナリスト)