ゴーン逃亡は「京都コングレス」を控える検察にとって最悪のタイミングだった

 令和元年も終わろうとする年の暮れ、「ゴーン、国外逃亡」という大きなニュースが日本中を驚かせた。関西国際空港のプライベートジェットでの搭乗セキュリティーの甘さを事前にチェック、音響機器を入れる箱に潜み、逃亡の幇助には元グリーンベレーの隊員も絡んでいて、誰もが「ゴルゴ13の世界のよう」と、ただただ驚くしかなかった。

「逃亡手法やゴーンの現在の居場所など、様々な情報が少しずつ判明してきてはいますが、そんなものは後の祭りといった情報だけ。日本が犯罪者引渡し条約を結んでいるのはアメリカと韓国だけなので、もちろん逃亡先のレバノンが自国の英雄を引き渡すわけがなく、検察としてはもうお手上げですね」(大手紙司法担当)

 当のカルロス・ゴーン被告は米国のPR会社を通じて、「(日本の司法制度に)基本的人権を無視された」「(自らの“国外脱出は”)不正義と政治的迫害を回避」したと、もう言いたい放題。8日、レバノンで行われた記者会見でも、「差別が蔓延し、基本的人権が無視された日本の司法制度のもはや人質ではない」「日本では国際法で守られるべき法的義務が著しく無視されている」「司法から逃げたのではない、不正と政治的迫害を逃れたのだ」などと弄し、逮捕についても日本の検察と日産に仕組まれたものと主張。検察はもちろん、保釈を許した裁判所も含めた司法関係者の面目は丸潰れだ。

「もともと日本の司法制度は、取り調べに弁護士が同席できない、否認すればするほど勾留期間が長くなって保釈も難しくなることから、『外に出たいなら自白しろ』と迫る人質司法と呼ばれて評判が悪い。ゴーンは保釈が認められましたが、今回の逃亡理由の一つには奥さんに会えないからというものも上がっていて、この保釈条件が人権を無視したものとの批判もあります。そもそもゴーンが異例の早期保釈を許されたのも、世界中の注目を集めている事件だけに、世界基準に合わせたものです。その足元を掬われたかっこうですね」(同前)

 それでもなんとか面目を保ちたい検察・特捜部は7日にゴーン被告の妻・キャロルの逮捕状の取得を公表。通常、逮捕状の発行は表立って公表はしないもの。逮捕できない相手に逮捕状を取ったことは「後付け」以外何物でもないが、もはや国内のみならず海外の国際世論を味方につけるしかない窮余の策ともいえる。

「加えて『なぜこのタイミングなんだ』と検察関係者は苦りきっています」

 とは、司法関係に詳しいフリージャーナリスト。

「地味な話ながら検察関係者にとって非常に重要なイベントを控えているからです。今年の4月に京都で開催される、世界中の司法関係者が集まる国際会議の京都コングレス(国連犯罪防止刑事司法会議)というのがそれ。日本での開催は50年ぶりで、2015年にドーハで開かれた前回大会で開催が決定されて以来、法務省はその準備に努めてきました。例えば、2017年に野党の猛烈な反対をよそにテロ等準備罪が成立しましたが、それもコングレスまでに国際的な組織犯罪防止のための法整備に迫られたからという側面もあったくらいです」

 もちろん会議でゴーン被告の話題が上がらないわけがない。それまでに検察はどうしても「検察=正義、ゴーン=悪」という構図を作っておかねばならない。今後、時間的猶予がない検察サイドから、さらなる奇策が飛び出してくるかもしれない。

(猫間滋)

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