2017年に神奈川県座間市のアパートで発生した男女9人に対する殺害で、死刑が確定していた白石隆浩死刑囚(34)の刑が執行されたのは6月27日のこと。
刑事訴訟法では、死刑の執行は判決確定から6カ月以内の執行と定められているのの、実際には守られていないのが現状で、前回の執行は22年7月。東京・秋葉原で無差別殺傷事件を起こし、17人を死傷させた加藤智大元死刑囚(執行時39)で、以来、2年11カ月間、死刑は執行されていなかった。
「世界的にみても死刑制度は廃止の方向にあり、全米では20州以上、EUも死刑制度の廃止を加盟条件に掲げています。しかし日本では依然として『絞首』と定められた死刑制度が存続され、今回の執行で死刑囚は105人となりました」(社会部記者)
日本における死刑適用の判断は永山基準に基づいたもの。これは拳銃で4名を殺害した永山則夫元死刑囚の裁判で、当時の最高裁判所が示した「犯行の罪質」「残虐性」「結果の重大性」「犯人の年齢」など、9つの要素が柱になっている。
「なかでも『結果の重大性』、つまり、殺された被害者の数については、かつて被告が18~19歳の場合、4人を殺害しなけらば死刑にはならなかった。しかし、光市母子殺害事件の高裁差し戻し審で、犯行当時18歳1カ月の少年が2人殺しで死刑判決を受けて以降、被害者が4人以下でも死刑が確定するケースも出てきました。現状、被告人が20歳以上の成人で、3人以上を殺害した場合、死刑は確実とされるため、9人を殺害した座間のケースに死刑以外の選択はなかったということになります」(同)
ただ、死刑確定後、50年近く服役している死刑囚がいるにもかかわらず、なぜ今回、「3年ぶり」の死刑執行再開で「確定から4年」という「比較的日の浅い」白石死刑囚が選ばれたのだろうか。前出の記者が説明する。
「政界的に死刑制度廃止が叫ばれる中、罪を犯したとはいえ、20年も30年も拘置所に置かれ、高齢になってから死刑が執行されることに、どうしても世間から冷たい視線が注がれがちなことは事実。さらに近年は、新証拠がないにもかかわらず、再審請求を繰り返し執行を逃れているケースが多発しています。そんな中で、白石死刑囚は請求を行っていなかったと言われており、少しでも批判をかわしたい政府としては『執行されても仕方がない』という人選をした、というところではないでしょうか」(同)
また今回、死刑執行で判をついた鈴木馨祐大臣の4人前は、あの「はんこ失言」で更迭された葉梨康弘氏が法務大臣を務めており、そんな状況が大きく加味しているとの見方もある。
「葉梨氏は法務大臣に就任から3か月後のパーティーで『だいたい法務大臣というのは、朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ』発言。職責軽視も甚だしい、との猛批判を受け引責辞任したことは有名な話。結果、法務省にも大きな批判が集まり、死刑の執行がしづらくなったとも言われています。そんな状況の中、24年12月には、確定死刑囚だった袴田巌さんが再審で無罪になり、より死刑の再開が難しくなった。約3年間、死刑執行が行われなかった背景には、そんな事情があったと言われています」(同)
2009年に裁判員制度が発足してから16年。大きく変貌を遂げたといわれる死刑をめぐる判決。執行されぬまま獄中死する確定死刑囚が増える中、はたして死刑執行の行方は…。
(灯倫太郎)